次なる修行
「よし、まずは水でのコントロールを見せろ」
第一訓練所に到着したシルハとタピスは、滝壺の前で向かい合わせで立っていた。
「はい」
シルハはタピスの言葉に頷くと、その場にしゃがみ込んで水面に手を翳す。深く呼吸をして体の奥の奥まで酸素を行き渡らせてから、シルハは目を瞑ってイメージを開始した。
形のない魔力を水に例えて動かしていく。ゆっくり、体中を駆け巡らせてから手に魔力を集中させた。
魔力に引かれて、まるで磁石に引き寄せられる砂鉄のように水の水面が揺れ、掌に集まってくる。次第に円状に集まった水は掌の中に収まった。
「よし、次は飛ばしてみろ」
「……はい!」
シルハは目を開けると、魔力の流れを乱さないように極力注意しながらゆっくり立ち上がる。手を前に翳して、シルハはイメージをした。
「…飛べ!」
シルハのかけ声と共に集めて円状に固まった水からまるで弾丸のように水球がいくつも発射される。以前タピスに見せた時とは違い、今度は全ての水球が前へと真っ直ぐ飛んでいった。
「なんだ。やるじゃないか」
自分に直々に修行に付き合うよう頼んできたのだからよほどコントロールが不味いのかと思ったが、意外に綺麗に操作できているようで、タピスは意外そうな表情をした。
「魔法バングル…もう無くてもよさそうだな」
あまりにも不味いようだったら再度装着してもらうつもりだったが、どうやらその必要は無さそうだ。自分が見ない間にも頑張って修行していたのだろうとタピスは感心した。
「ありがとうございます」
その言葉にシルハは嬉しさで頬を紅潮させる。今はジルクの魔力もなんとか操作できるようでホッとしていた。
「じゃ、次の段階な」
タピスは言いながら手を水面に翳す。
ゴポリと水が沸騰するような音がして、シルハは驚いて水面を見つめた。
「今度はイメージの発展だ。今までは魔力の流れのみのイメージだったが…」
タピスが一端言葉を切ると、水面が大きくふくれあがり、そのまま天へと重力に逆らって伸びてくる。巨大な水の塊が水面を離れ宙に浮いた。
その巨大な塊はボコボコと、未だに沸騰したような音を立てながら何か形を作り出していく。楕円形だった水球からグニャグニャと粘土のように形を変えていく不思議な水を眺めながら、シルハは驚いて口を閉じるという作業を忘れてしまい、情けなく半開きのまま見つめていた。
水で出来たそれは、透明な体をガラス越しの太陽の光を受けてキラキラと美しく輝く。
「次の段階は形状イメージ。動物の形をイメージして作りだし、実際動かしてみる修行だ」
タピスが生み出したのは美しき牡鹿。
水面に立つ水で出来た牡鹿はシルハの方に顔を向け、水面を行きよい良く蹴った。
水面が牡鹿の力によって激しく揺れ、その牡鹿は地面に足をつける。そのまま足を止めることもなく、訓練所の中を自由に走り出した。
軽やかに走るその姿に目を奪われる。水で出来ている所為で若干形状が不安定なのか、走りながら体から水しぶきを散らし、それがさらに太陽に反射して幻想的に輝いた。
「凄い…!」
シルハは思わず感動して声を出す。タピスはしばらくその牡鹿の動きを見守ってから、クイッと牡鹿を招くように指を自分の方に折った。
牡鹿はその合図でまた水面に駆けだしていく。牡鹿が水上にたどり着くと、形成していた形を失っていき、派手に水をまき散らしながら水の中へと戻っていった。
雄々しい鹿は姿を元に戻し、帰った水は次第に落ち着きを取り戻す。
「さ。お前も何でも良いからイメージして作ってみろ」
目の前で起こった光景に驚いてまだ頭が回転しきっておらず硬直しているシルハに、タピスはさも簡単そうにシルハにやることを促した。

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あきゅろす。
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