根拠など無いけど
「知らない」
口を開いて発せられた言葉にレイチェルは自らの耳を疑う。だがルイの性格や、表情からこんな事で冗談を言うはずがないと思い、レイチェルは真剣な表情で尋ね返した。
「知らないって…どういうこと?」
別に隠すつもりもないらしく、今まで触れなかった割には簡単にルイは言葉にしていく。
「知らないんだ。2年位前から消息不明なんだよ。2番隊のアンケルとして活動してたんだが、ある任務の時に姿を消してそれっきり。生きてるかも、死んでるかもわかんないんだ」
そこまで喋ると、ルイは別に凄いことをいった風でもなく平然とコーヒーを飲み干した。話を聞いていたレイチェルの方が、その内容にショックを受けたようで切ないやら、ルイに質問してしまったことに対しての罪悪感やらで複雑な表情をしている。それを見たルイははぁっとため息をついた。
「別に悪く思うことはねぇよ。ファンタズマに兄さんが入った頃から覚悟は出来てるんだ」
生と死が隣り合わせの世界に身内が飛び込んでいく。それは本人だけでなく周りだってそれなりの覚悟が必要なこと。
ずっと昔から、
こんな風になってしまうことだって覚悟していたのだ。
「でも…ごめんなさい」
それでも辛くて寂しいことには変わりはないではないか。
レイチェルはまるでしかられて落ち込んでしまった子犬のようにシュンと沈んでしまう。ルイは決まり悪そうに顔を歪めてからレイチェルの頭をそっと撫でた。
「まだ死んだって決まったわけじゃないんだ。生きてるかもしれない。だから気にするなよ」
「……うん…そうだね。きっとお兄さんは無事だよね!!」
ルイの言葉にレイチェルはパッと表情を明るくする。扱いが簡単だな、とルイは1人でほくそ笑んだ。
「ルイ君は…どうしてファンタズマに入ったの…?やっぱりお兄さんを捜すため…?」
レイチェルは首を傾げながらルイの表情を覗き込む。ルイは一瞬目を泳がせてから小さく頷いた。
「ここに来れば…わかる気がしたんだ」
もう入隊してしばらく経つ。未だに兄の行方はしれないが、ここにいればいつかどこかで会える気がして。
覚悟をしていたってやはり無事でいて欲しいし、会いたいのだ。
その気持ちはずっと合っていないせいか膨らんで
「待ってても来ないから…自分で探すしかないんだ」
だから魔法を磨いた。戦う術を身につけたのは探し人を見つけるため。
「うん…お兄さん見つかるよ、絶対!!」
レイチェルは何を根拠にしているかは不明だが、絶対と力強く頷く。
「私も協力するから!」
自分を見つめてくる彼女の紫色の瞳はどこまでも真っ直ぐで
根拠なんか何処にもないけど、なぜかその言葉は嘘や虚像なんかじゃなく、真実みを帯びている気がして
「あぁ…ありがとう」
お礼を言えばレイチェルは花のようににっこりと笑みを広げた。

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