聞きそびれ
「ねぇルイ君」
ここは談話室。かなりの広い部屋には一面に赤いカーペットがひかれ、たくさんのテーブルやソファーが並び、センスよく配備された植物やら小物やらがかなり寛げる空間を作り出しているこの部屋の、ゆったりとして柔らかく、坐り心地抜群のソファーに越しかけながら、レイチェルは手に持っていたココアの入った紙コップをテーブルに静かに置いて、隣に座るルイを見た。
「? なんだ?」
ルイも飲んでいたコーヒーから口を離してレイチェルと目を合わせる。ちょっと垂れ目な紫色の瞳がしっかりと自分をじっと凝視していて、ルイは はて?と首を傾げた。
「俺、何か付いてるか…?」
「ううん、何も?なんで?」
「いや…」
疑問を疑問で返されてしまいルイはハァッと溜息をつく。それからギュッとレイチェルの眉間に指を押し当てた。
「見すぎだ」
「あ、ごめん」
ルイの言葉に目をパチクリさせたあと、恥ずかしそうに少し頬に色を入れて、ポリポリと頭をかく。ルイは手を引っ込めると、ソファーに腰をかけ直した。
「で、なんだ?」
「あ、うん。あのね、突然思い出したんだけどね」
レイチェルは人差し指を顎に当てて挙動不振になりながら声を出す。少し不安げな音を交えたその声に、ルイは理由が皆目検討つかず、また首を傾げる事になった。
その時、急に談話室がざわめきだし、ルイとレイチェルは不思議に思ってその騒ぎの中心に目を向ける。
そこにいたのは一人の男。
明るい茶髪、伸ばして胸の辺りまである横毛をクロスが描かれた楕円型の髪飾りで留め、肩辺りで切られた後ろの髪も10程の束で分けられ、それぞれ円が三つ連なった白い髪飾りで留められたかわった髪型。ゴツ目のアクセサリーを幾多も身につけ、ベルトに付けられた鎖が銀色に輝く。
同じくベルトに結わえられたタピスとフロウィとの友情の証である髪飾りが柔らかく揺れていた。
「あ、ナナハさんだよね…?」
「あぁ」
ルイとレイチェルは、他の談話室にいた隊員と懐かしそうに会話を交わすナナハを見ながら騒ぎの理由がわかり、また顔を元に戻す。
二人と向かい合わせで座っていたマーダは、紙コップに並々つがれていたメロンソーダを綺麗に飲みほすと、ナナハへ視線を向けた。
「あ!バナナのお兄ちゃんだ!」
それは禁句だ!
無垢な瞳をキラキラと輝かせ、可愛い口から発せられた言ってはならない禁句ワードを口にしたマーダを見てルイは思わず顔をしかめ、意味がわかっていないレイチェルはクスクスと笑いを零した。
「ん? あ!」
耳が良いのか、どうやらマーダの声が届いたらしく、ナナハは一重瞼を3人の方へ向けると笑みを作る。
「ちょいとすまんな!わい今人探しの最中や」
ナナハは片手で謝罪のポーズをとると、回りを取り囲む隊員達を押し退けて3人の方に向かって歩いて来た。
「新入隊員の子たちやな。ルイにレイチェルにマーダ!」
一人一人指を指しながら名前を確認していく。よくも一度名乗っただけで下っ端の名前を完璧に覚えたものだと、ルイはナナハの記憶力に感心した。
「そうですが、何か御用でも?」
「ん?実は今シルハ探しとんのや。どこおるか知らへん?」
ナナハは少し首を傾げてルイに尋ねる。ルイはシルハに何の用かと疑問に思いつつも口を開いた。
「シルハなら訓練所に修業しに行きました」
ルイの言葉に、以外だったのかナナハは細い目を見開いて大きくする。
「修業!?はぁ〜精出るなぁ…せっかくの休日くらい休めばえぇのに…」
ナナハの言葉に同意するようにレイチェルは小さく頷く。ルイはその様子を見てからナナハに視線を戻した。
「ん〜…まぁ頑張りやさんやなぁ〜……。おおきに」
ナナハはポリポリ頭をかいてから手を振ると、足早に談話室を出ていってしまう。一通り見送ってから、レイチェルはルイへ視線を向けた。
視線に気付き、ルイもレイチェルを見る。
「あぁ…。続きな。思い出したのって?」
「うん…」
レイチェルは言いにくいのか、口をモゴモゴさせてなかなか言葉を作り出そうとしない。マーダは話しを持ち掛けといて口ごもっているレイチェルの態度が理解できないのか、眉を寄せて渋い顔をした。
「ルイ君のね…お兄ちゃん…どうしたのかな?って…」
入隊式の日、確かにルイの兄がこの隊にいたのだ。それ以来聞くタイミングが無く時の経過と共に忘れてしまっていたが、ふと思い出したのだ。
ルイはあぁっとレイチェルの態度に納得すると、コーヒーを一口口に入れる。ゴクンと黒い液体を喉に通してから、ルイは口を開いた。

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