焦燥感
タピスは普段になく意気揚々と部屋を出ると、スタスタとエレベーターに向かって歩いていく。シルハはマズイ時に来てしまったのではと内心ハラハラしながらタピスに続いた。
シルハが来た時のが残っていたのか、タピスがエレベーターのボタンを押すと、すぐにチンッと機械音を立てて扉が開く。タピスが乗り込んだのを見てから、シルハも足早にエレベーターに乗り込んだ。
ドアが閉まり、ボックスがワイヤーに引かれて降りていく。10階辺りに来た事を示すランプが付いたころ、シルハはタピスに向かって口を開いた。
「あの、お仕事中にすみませんでした」
謝罪を入れてから頭を下げる。タピスは驚いたように目を丸くさせてから、ぷっと彼にしては珍しく吹き出した。
「気にするな。寧ろ礼を言いたいくらいだ」
タピスの意外な言葉にシルハははて?と疑問に思いながら顔を上げる。すると、綺麗な笑顔が視界に入ってきて一瞬ドキリとした。
「報告書」
「……へ?」
「書いてたんだけどよ…苦手なんだよなぁ…何書いていいかさっぱり解らなくてよ…。だから解放されて今ホッとしてる」
クスクスと、本当に珍しく笑ってる綺麗な青年の顔を見ながら、シルハは思わず苦笑いした。タピスにとってはまさにナイスタイミングで訪れたわけであるが、フロウィにしてみればはたまたいい迷惑であろう。
その時、チンッと言う先程と同じ音がしてドアが開く。タピスが先に出てからシルハも後に続き、二人で訓練所を目指した。
「そういえば、急にどうしたんだ?」
「へ?」
歩いているときに急に疑問を投げ掛けられ、シルハは間抜け面をしながらタピスを見る。タピスは少し不思議そうな顔をしながら首を傾げた。
「修業見てほしいなんて、今まで自分から来た事ないだろ?」
タピスの言葉を聞いて、あぁっとシルハは納得する。それから顔を少し俯けると、右手を持ち上げて右手首に視線を向けた。
「魔法バングルが壊れて…魔力のコントロールがまた1からになってしまいました…。早く…完璧に魔力をコントロール出来るようになりたいんです……!」
シルハはグッと拳を握る力を込める。シルハの目に宿る色に、タピスは不信感を抱いて眉を潜めた。
「何そんなに焦ってんだ…?」
シルハの瞳に映るのは明らかに焦燥感。まるで何かに急かされているように。
「早く…モノにしたいんです……」
今の状態で魔力コントロールを完璧にする。それはジルクの魔力も操れる様になるということで、それが彼と自分との間の謎を解く鍵になる気がして、シルハは一刻も早くマスターしたかったのだ。
「……焦るな…。お前も知ってるだろうが、魔力は爆弾みたいなもんなんだ。焦って使用方法を間違えれば自滅するぞ?」
タピスの言葉にグッとシルハは下唇を噛む。
「ひ…一人でやると大変な事になりそうなんで…」
魔力は扱いを間違えると身を滅ぼしかねない。その恐ろしさは身を持って体験済みである。
しかし、今の心境では無理をしてもマスターしようと躍起になりそうで怖いのだ。
「なるほど…ストッパーってわけね」
タピスは納得した様にポリポリ頭をかくと、歩行速度を上げる。
「行くぞ」
「はい…!」
後ろを軽く振り返りながらシルハに早く来る様に促す。シルハは大きく頷くと、駆け足でタピスに追い付き、並んで訓練所を目指した。

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