選ばれたのは君
『同じ人間』
ジルクから発せられた言葉にシルハは動揺して唇が震えた。
「え?」
必死で考えるが脳がついていかない。だってどう考えたっておかしいのだ。
確かに彼と自分は良く似ている。初めてあった時、自分の鏡を見ていると勘違いしたほどに。
だが決定的に違うことがあったのだ。
「嘘だぁ…」
だって髪の色が明らかに違う。
自分の銀色の髪は父親譲りだ。父も自分と同じように銀の髪をしていた。
だがジルクはどうだろう?
彼の髪は灰色と形容するにふさわしい色。シルハの髪よりずっと色が濃く、暗かった。それは自分の物とも、父の物とも全く違う。
〔そう…だって、結局は俺たちは別々の個体として生まれてきたから。だから俺はキミだけど、やっぱり全く違うんだ〕
ジルクはオッドアイの瞳でシルハの髪を見つめ、サラリとその髪を撫でた。銀色の髪が指の間から抜けて元の位置に戻っていく様を見つめながら、ジルクは口を開く。
〔だから魔力の色も、似ているくせに違って、キミのコントロールの阻害をしているんだよ〕
その言葉で、シルハは以前ジルクに言われた言葉を思い出した。
――君が魔力の制御が出来てないのは俺のせいなんだ。
持ち主が違って、だから魔力の性質…色が違う。だからコントロールが効かない。それはシルハとジルクが違う個体だからで、でも自分たちは同じ人間なのだ。
「ジルク…さっぱり意味がわからないよ…」
シルハは混乱して、答えを知るジルクにすがるしかなく、彼の手をギュッと握って問いかけた。ジルクの手を掴む力が徐々に強まる。それは今まで見たいに逃げられてしまわないためか、シルハも良くわからないうちに必死にジルクをつなぎ止めるように彼の手を握っていた。
〔今は…まだ時が来てないからわからないままで良いよ。いつか…きっとこの意味を理解する時が来る…。ううん。俺が君に話す時が来ると思う〕
ジルクは自分の手を力強く握るシルハの手を見つめながら言葉を口から生み出す。その声はいつも聞く優しく、暖かな色とは違い、悲嘆のこもった、切なげな色を持っていた。
「今じゃ……駄目なの?」
シルハはその色に戸惑いながらもジルクに尋ねる。彼のこの切ない、寂しい色になにか異様な物を感じたが、尋ねずにはいられなかったのだ。
〔今は…ごめんね……。勇気のない、俺を許して〕
ジルクの声が震える。声だけじゃない。肩も震え、自分の手をシルハの手ごと胸の前に持ってきて、その手にすがるように顔を伏せた。
いつもは笑顔で、余裕を持ったジルク。大きく見えていた彼が急に小さく見えた。
そんなジルクを前にして、自分の浅はかさにシルハは我に返った。
混乱して、心に余裕が無くなっていた。
あの異様な色を感じた時から、彼が話したくないのは一目瞭然だった。
それなのに話すことをせがんだのは自分の心の救済だった。
わからなくて、混乱して、怖くて、不安で。彼にすがるしかなかったから、シルハは彼のことを考えてあげる余裕を持てずに彼に話すようせがんだのだ。
「ごめん…」
シルハも顔を伏せて謝罪する。心に余裕がないのは自分だけじゃない。ジルクも同じなんだ。
〔謝るのは俺なんだ。覚悟がない俺なんだ〕
「ううん。自分主義になった俺は君に謝りたいんだ。ゴメン…」
まだ俯いたまま震えるジルクに首を横に振りながらシルハは再度謝った。
〔……今日はここまでにしようシルハ。この話は、また時が来たら話すよ。だから…〕
ジルクは顔を上げると一歩一歩後退しながらシルハの目を見つめる。シルハも見つめ返すと、ジルクは言葉に詰まったのか、一端言葉を切った。
〔今日はここまで〕
つながっていた手が、相手と開いた距離で自然と結合を解く。シルハは対象物が無くなった手を引っ込めると、小さく、だが相手にしっかり伝わるように頷いた。
〔シルハ…これだけは覚えておいて…?〕
ジルクの姿が、少しずつ闇に溶ける。シルハは黙ってその様子を見守りながらジルクの言葉を待った。
〔神様に選ばれたのは君だったんだよ〕
切なげに笑いながら、そう言い残してジルクの姿は闇に消えた。
辺りは真っ暗になって、シルハはきゅっと目を閉じる。そしてゆっくりと、現実の世界で目を開いた。
瞳に映るのは先程と変わらぬ訓練所の景色。だが、明らかに自分の心境は先程とは違っていた。
「神様に…選ばれた……?」
最後の言葉の意味すら自分には理解できない。シルハは無心で空を見上げた。
ガラス越しに映る空は何処までも澄んでいて、自分の見通しのきかない混沌とした心とは正反対で眩しすぎるほどに輝いていた。

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