嵐のような
外に出ればポカポカ陽気。ナナハは日の光に目を細め、目の上に掌を翳して光を遮ってからゆっくり歩き出す。鳥達が平和そうに囀り合っていて、ナナハは翳した手を胸の前まで下ろし、その鳥達を暫く見守っていた。
「ん?」
暫くすると、急に中央棟の方が騒がしくなる。恐らくどこかの隊が帰還したのだろうとぼーっと考えていたナナハは、もしやと思い駆け足でそこへ向かった。
期待に胸が膨らむ。心臓がドクドクと、普段より強く脈打つのは走っているせいだけじゃない。
走るたびに風が彼の髪を揺らして、気持ち良く頬を撫でる。それに上機嫌になって、思わず口元が緩んだ。
中央棟の側までたどり着くと、予想通り隊が帰還したようだ。たくさんの人間が溢れかえり、思い思いに言葉を発し合う。混雑した街中の様になった中央棟前の広場から、少しずつ人間が休息をとるべく隊舎へ向かい出した。方向はてんでバラバラ。異様な量の人数からして、恐らく合同任務であったのだろう。さらに期待に胸を膨らませ、ナナハはキョロキョロと人を探した。
「あ!おったわ!タッピ〜!フロウィ〜ん!」
ナナハは目的の人物達の内の二人の姿を捕らえると、左手をメガホン代わりに口の前に掲げ、右手は上まで伸ばして大きく左右に振りながら彼等に存在をアピールする。その声に気付いた二人は、一緒にナナハへ視線を送った。
「ナナハ」
「ナナハ!ただいま」
別段普段と代わらぬ調子で自分の名を呼ぶタピスと、いつもみたいにかわいらしい笑顔を浮かべて嬉しそうに自分に手を振り返してくれるフロウィに嬉しくなり、ナナハは駆け足で二人に近付いた。
「長かったなぁ。お疲れさん」
楽に会話出来る位置まで近づくと、ナナハは二人に声を掛ける。
「怪我あらへん?」
あっけらかんと、別段心配している様子もなく軽い声色で尋ねた。だが、目には心配の色が写っており、怪我がないかを念入りに確かめているように上下左右に動いて二人の観察をしている。フロウィはそのナナハの様子が可笑しかったのか、クスクスと口の前に手を当てて笑いを零した。
「心配してくれてありがとうナナハ。でも、大丈夫よ!」
フロウィは怪我がないことを証明するように手を広げてよくナナハに見せる。ナナハも怪我がないことを確認すると、やっと安堵の色を瞳に写した。
「そーみたいやね。まぁ元からそこまで心配してへんけど」
「お前、目を見せると途端に嘘つくのが下手になるな」
笑みを浮かべながら先程の様に軽い調子で話すナナハに、タピスも可笑しくなったのか、小さく笑みを零しながらナナハに言い放った。
ナナハはよく目で語る。だから目を隠すのだ。そこ以外の演技力は郡を抜いて上手いが、目だけは嘘を付けずに感情をストレートに出してしまう。それはもしくは長年付き合い続けている自分達だからわかるものなのかもしれないが、それでもナナハの目を見れば何を考えているのかがよく理解できた。
「えあ?ん〜やっぱ敵わんな〜二人には」
ナナハはタピスの言葉に苦笑いを浮かべながら頭をポリポリとかく。それから3人で笑顔を零しあった。
そんな3人に駆け足で誰かが近付いてくる。足音にその方を向くと、急に体に付加が来て、ナナハは思わずよろめいた。
「ヴィクナ」
驚いたようなタピスの声を聞き、ナナハは自分に突っ込んで来た人物に目をやる。確かに彼が呼んだように自分に抱き着くようにギュッとしがみつく手に力を込めた金髪の少女ヴィクナが居た。
「わ〜びっくりしたわ〜…ヴィクナんおかえり…」
「ナナハ!話ある!」
「どわっ!何や!?何やねんいったい!」
笑顔で迎えようとすると、ヴィクナは伏せていた顔を上げ、つり気味の碧眼でキッとナナハを睨み付ける。そのままナナハの腕を引き走り出した。遠慮無しに引かれる腕に、ナナハは体を持っていかれるようにバランスを崩しながらヴィクナに連れていかれる。
「…なんなんだ…?」
「さぁ?」
嵐のような勢いで展開した事態にタピスは目を丸くしながら2人を見送り、フロウィは苦笑いを浮かべながらタピスの疑問に返事をした。

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あきゅろす。
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