大きな思いに
世界は荒れ果てて、各地で起こる争いにこの星は悲鳴を上げている。でも人間とは直接その問題と関わりを持たないと、そんな悲惨な現状は頭を離れて独り歩きでどこかに行ってしまうようだ。戦いの渦の中心にいる彼ですら、本部で身を伸ばしている時、ほんの一時に過ぎないが、そんな現状を忘れてしまうときがある。
「平和やなぁ…」
ファンタズマ本部の2番隊隊舎にある自分の部屋の窓から身を乗り出して空を眺めながら、思わずポツリと零してしまった。



―新たな境地と出会い―




明るい茶髪で横毛だけ胸まで長さがあり、肩より少し長いくらいの他の髪は10の束に分けられ、先を束ねた独特のヘアスタイルをした一重瞼の細目の青年、ナナハはそんなことを言った後に、世界は決して平和なんかじゃないと言うことを思い出して、自傷的に笑みを零す。空を仲良さそうに飛ぶ3羽の鳥を見ていたら、ついそんなことが口を突いて漏れてしまった。
「みんな…無事やっとるやろか…?」
ナナハはため息混じりに小さく呟いてからポリポリと頭をかいた。
休暇と偽って潜入先である敵のドリミング本部からナナハは1週間という期間限定で帰還をしていた。その帰還が過ぎれば、また育った本部を離れ、敵地に侵入しなければならない。そのためにこの1週間は本部に缶詰である。任務等に出てもし裏切りがバレれば、ナナハはもう潜入しに行くことが出来ない。いや、恐らく迎えるそぶりをしつつ、中に入ったら即行で殺されるだろう。だから今回の任務もナナハは一人本部で隊員達の帰還を待っていた。
「はぁ…帰ってこんな〜…」
ナナハは妙に不安や焦りを心の中で育みながら落ち着かない様子でキョロキョロと辺りを見回す。だが、大事な幼なじみや、自分の隊の仲間の姿は彼の瞳には映らなかった。
「はぁ…」
ナナハは諦めたようにため息をつき、窓から離れてベッドにボフッと体を埋めた。2番隊と7番隊の援護任務に向かってもう3日目の昼を回ったところ。アイツらが殺られるはずないと言う思いと、万が一という恐ろしい可能性に怯える思いが自分の中で反発しあってて酷く気持ち悪く、精神状態も不安定になる。
早くみんなの顔を見て安堵と喜びで胸をいっぱいにしたい。
変な事で不安がった自分を嘲笑ってやりたい。
そんな思いに押し潰されそうだ。
潜入した先でも、彼等の話しを耳にするたび喜んだり苦しんだりした。でも久々に顔を見ると、それ以上に強い感情に襲われて
「早く帰って来てや…」
願うように声を搾り出す。早くしなきゃ耐え切れずに潰れてしまいそうだ。
「…ここにおったらかなりネガティブになりそうやな…」
久々に帰って来たせいか、普段の自分では考えられないほど思いが大きくなっている。気を紛らわせようと、ナナハはベッドから身を起こすと、部屋から出て宛もなく歩き出した。

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