心を溶かす笑顔を
白い肌にナイスバディー。淡い黄緑色の瞳を持ち、印象的な段の入った黒髪を高い位置でツインテールにした、誰もが可愛い、美人だと思う恵まれた容姿を持った美少女フロウィは、とあるテントの前に来ていた。
「ヴィクナちゃ〜ん、いる〜?」
手を口の前に掲げてメガホン代わりにしながら、フロウィは少し状態を前に倒したような体勢になってテントの中に居るであろう少女に声を掛ける。程なくしてこのテントの住人である少女が姿を現した。
細身に白い肌、短く切られた金髪は肩の上で軽くはね、少しつり目気味の碧眼がチャームポイントの少女ヴィクナ。だが普段ハツラツとした彼女の表情には張りが無く、しょげたように瞳には暗い影を宿していた。
フロウィはその尋常じゃない様子に驚いたように目を見開く、だが直ぐに元の笑顔に戻って、普段と変わらぬ調子でヴィクナに語りかけた。
「久々の合同任務だもの。少し女の子同士で話さない?」
フロウィの提案にヴィクナは少し迷惑そうに眉を寄せる。普段の彼女からは見られないような落ち込みよう。おそらく今は1人にして欲しい気分だったのだろう。だがフロウィは相変わらずヴィクナに笑みを向けるだけだった。
「ね、どう?」
「……入って」
フロウィの笑顔に負けたのか、ヴィクナは仕方なさそうに横に避けて、フロウィにテントへの入り口を開けてあげる。「お邪魔します」と明るい声で言いながらフロウィはヴィクナの横を通ってテントの中に入った。
「何の用さ」
「別に?ただお話ししようと思って、座っていい?」
不機嫌そうなヴィクナの態度お構いなしで、フロウィはヴィクナのテントの中央に設置された机と共に置かれた椅子を指さす。
「別に…」
「ありがとう♪さ、ヴィクナちゃんも座って」
ヴィクナから了承を得ると、フロウィは遠慮無しに椅子に座る。机を挟んだ向かい側にある椅子を指さすと、座るように促した。
少しまだ不機嫌そうだが、どうやら諦めたのか、ため息をつきながら椅子に腰掛ける。フロウィはその様子を見て満足そうに笑うと、ヴィクナと正面から向かい合った。
「ヴィクナちゃん…いったいどうしたの?何か様子が変よ?」
あまり心配そうな表情を作らず、驚いたような表情をしてフロウィは尋ねる。それを聞き出すのが目的ではないとヴィクナに理解させるためにあえて心配そうな表情は作らなかった。
「……なんでも…」
「そう…まぁいろいろあるものねお互い」
ヴィクナは顔を伏せてフロウィの顔を見ようとせず拒絶する。あえて深追いしようとはせず、フロウィはあっけらかんとその反応を受け流した。
気落ちしたようなヴィクナには、おそらくその原因である話題はタブーの域にあるだろう。いくら詰め寄ったって自分から話し出すとは思えない。状況を理解できていないタピスからのお願い。事情が何もわからないと言っても過言ではない状態のフロウィは、解決策を見いだすためにもヴィクナから状況を聞いてしっかり内容を把握しなくてはならない。だからあえて変なことは聞かないのだ。世間話をするだけでも気が紛れることがあるかもしれない。
「今日は昨日と違ってずいぶん良い天気だったわね。足下が安定してて良かったわ」
「…だね」
まずは手始めに手近の話題からと思い切り出すも、見事に会話終了。このネタは使えないなと思い話題を探すと、直ぐに話題が浮かんだ。
「あ!そういえばね、このいいレストラン見つけたのよ。本部の近くの町で新しいのが出来たんだけど、外装の雰囲気も素敵だったし、とっても美味しいって有名なお店のチェーン店なの!!今度帰還日が被って休暇が取れたら一緒に行きましょうよ」
休暇の日に町に散策に出た時に見つけたレストランを思い出し、フロウィはにっこりと微笑みながらヴィクナに問いかける。ヴィクナは反らした顔を上げて、少し眉間にしわを寄せながら切り返す。
「タピスと行けば?」
その言葉に、フロウィは浮かべていた笑みを少し消し去り、悲しそうに眉を下げた。
「それが駄目なのよ…。誘ったんだけど「雰囲気が苦手だ」って…。おしゃれで高級そうな場所なんだけど、タピスそう言う少し気取ったような所昔から駄目なのよね…」
はぁっとため息混じりに今度はフロウィが視線を落とす。ヴィクナも面倒そうにため息をつくとまた口を開いた。
「ならナナハと行けば?」
その言葉にフロウィは首を横に振る。
「ナナハはまた直ぐ潜入捜査に行っちゃうでしょ?それとも私と行くの嫌?」
「そんなことは全然無い!けど…」
ヴィクナと目を合わせて不安げな目を向け、少し首を傾げて尋ねる。ヴィクナはその言葉とフロウィの態度に焦ったように勢いよく言葉を返したが、途中で勢いが減衰した。
「なら決まり!」
だがその減衰具合を気にとめることもなくフロウィは笑顔で手をパンッと手を合わせる。花が咲いたような、そこだけ光が当たるような、そんな笑顔にヴィクナの顔もつられて緩んだ。
「あ、そこね、パスタが凄く美味しいんだって」
「パスタ?食べに行きたい!」
「でしょ!!一緒に行きましょ」
ヴィクナの顔が次第に元に戻ってきたことに内心安心しながらフロウィは笑顔をさらに広げる。
それをきっかけに、しばらく2人は他愛のない話を繰り広げた。
おしゃれのこと
ファンタズマ内のこと
何十分も話していると、すっかり普段の笑顔を取り戻したヴィクナの姿を見て、ついにフロウィは口を開いた。
「…よかったわ。普段のヴィクナちゃんに戻った」
心底安心したような笑顔。ヴィクナはその笑顔に一瞬躊躇ったような表情を浮かべてから、申し訳なさそうに眉を下げた。
「その…ゴメン……」
「何が?」
ヴィクナの言葉に、フロウィは首を傾げながら尋ねる。
「心配掛けさせちゃったり…さっきの態度とかも…」
目を伏せて、罰悪そうに口を尖らせながらヴィクナはもそもそと喋った。
「あぁ、別にいろいろあるもの。何かあったんでしょ?」
フロウィはクスリと笑ってから、机に肘をついて手を組み、その上に顎を乗せる。ヴィクナはそんなフロウィを見てから、小さく口を開いた。
「…どうすればいいか…わかんなくなっちゃって…」
ヴィクナはそれからぽつりぽつりと言葉を紡いだ。

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