向かうは彼の元
高台に張られた10人用の巨大なテントの寝袋の上で横になり、シルハは体を伸ばしていた。だが休む気にはなれずに落ち着くことが出来ない。ごろごろと寝返りをうってみるものの、落ち着く場所を見つけることが出来ずにイライラした。頭をよぎるのは1人の少女の顔ばかり。どうしているか、今…自分のことをどう思っているか、全てが不安で、それが落ち着けない原因なのはハッキリわかっていた。
彼女の沈んだような顔、不安や怒り、畏怖が混ざったなんとも言えないような曇った瞳。初めて見たその金髪の少女の顔に罪悪感と不安が募る。でもどうすればいいかわからなくて。
自分では彼女を助けたことは間違った選択肢ではなかったと思っている。怨念だけ背負って終わってしまうなんて悲しすぎる。でも、その結果があの少女の態度なのだ。
シルハは悶々と悩んでいると、ある1人の人の顔が少女の顔を遮って浮かんでくる。シルハはその人の顔を思い出すと同時にガバリと身を起こした。
「ルイ!」
「ん?」
シルハは自分の寝袋の隣で、疲れたのか半寝状態だったルイに声を掛ける。睡眠を邪魔されたためか、少し眉間にしわを寄せながらルイは重い瞼を開けてシルハを見た。
「…なんだよ…」
「ゴメン 俺、タピス隊長の所に行ってくるね」
「タピス隊長…?わかった……」
シルハの言葉に一瞬ルイは眉を潜めるが、すぐに頷いて目を閉じる。シルハは立ち上がるとテントから外に出た。
空を見上げれば星が優しく瞬く。こんな小さな星で争いごとを繰り広げる愚かな自分たちにも均一に、その優しい光を届けてくれた。シルハはすぅっと息を吸って体内に酸素を取り込む。少し魔力が回復してきたせいか、体が妙に重くだるいが、そんなこと気にせずシルハは7番隊のテント群へと向かった。
野営でのテントの張り方は、隊長のテントを中心に階級ごとで円を描くように張られている。バーサーカーのテントは一番端をぐるりと囲む形に設置されていた。
シルハは7番隊のテント群の一番中央のテントを目指す。たどり着くと、シルハはタピスに声を掛けようと口を開くが、テントの中から声が聞こえたのでピタリと声を出すのを止めた。テントから漏れる声は2つ。1つはこのテントの住人であり、シルハが会いに来たタピスである。そしてもう一つは女の人の声。高すぎず、耳障りの良い女性の声は、シルハの知っている少女のものだった。
「事情はわかったわタピス。じゃ、私はヴィクナちゃんの所に行ってくるわね」
「あぁ。頼んだぞ、フロウィ」
「えぇ」
もう一つの声は7番隊の副隊長、フロウィのものとわかる。シルハは、その会話の内容が気になり、もっとテントに近づいて全て聞き取ろうとした。
「しっかし…世話かかんな…アイツら」
「ふふ、そんな風に言ってもなんだかんだで面倒見ちゃうんだから」
ため息混じりのタピスの声と、おかしそうに笑いを含んだフロウィの声。シルハは訝しげに眉を潜めながらテントのすぐ側でしゃがみ込んで内容に耳を傾けた。
「じゃ、これから行くわ」
「頼む。詳しいことはヴィクナから自分で聞き出してくれ。俺はシルハん所行くから」
「わかった」
一通りの会話が終わったのか、途端にテント内が静まりかえる。人が出てくる気配にシルハは慌てて立ち上がってその場から放れた。
「あら?シルハ君」
しかし時既に遅し。シルハが立ち上がって数歩テントから放れた時に見事にテントから出てきたフロウィに見つかってしまった。
「こ、今晩和…」
「こんばんわ。タピス、シルハ君よ」
罰悪そうにシルハは頭を下げて挨拶をすると、フロウィは笑顔で挨拶を返してくれる。それからテントの中を覗いて、タピスにシルハの来訪を告げた。
「シルハ…来たのか」
フロウィに呼ばれ、タピスはテントから姿を現す。
「こ、今晩和」
シルハは再度頭を下げてタピスにも挨拶をした。
「今から行こうと思ってた。丁度良い、ついてこい」
「は、はい」
タピスはシルハを一度見るとくるりと身を翻してスタスタと歩いていく。シルハは慌てて顔を上げると、笑顔のフロウィに見送られながらタピスの後を追った。

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あきゅろす。
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