空に上がった終わり
戦場に身を投じたシルハは、武器を無くしたために魔法のみで応戦をしていた。ルイやレイチェル、マーダと共に平野を駆け抜け、出会う敵を薙ぎ倒す。ふと顔を上げれば、血のように赤く染まった夕日が、妙に空で自分の存在を浮かばせながら、光りを引き連れて沈もうとしていた。かわりに反対側からは闇が世界を支配しようとしている。シルハは光りと闇の間でグラデーションを築く空の曖昧な色を見つめながら、無心でその場に立ち尽くした。そんな余裕が生まれるほど、敵の数は著しく減ったのである。
3隊で対抗して来たファンタズマに対し、不利とみていち早く撤退したテログループがあるのか、ファンタズマの力の前に全てのグループが捩伏せられたのか、そこら辺の真偽は定かではない。ただ朝から続いたこの戦が、ついに終わりを迎えようとしていることだけは確かだった。
夕日に照らされた平野は、まるで命を終わらせるように闇に沈み始める。夕日によって更に赤さを増して煌めいていた血は、闇によって黒い液体へと姿を変貌させようとしていた。
終わりを迎える。
これは、この場の誰もが感じたことであった。
「ねぇシルハ君」
空を見つめていると、不意に背後からレイチェルの声が掛かり、シルハは上げていた顔を定位置に戻しながらレイチェルに振り返る。
「なに?」
後ろを振り返れば、レイチェルの困惑したような瞳と目が合い、シルハは言葉を促すように尋ねた。
「さっき隊長とすれ違ったじゃない?その時、隊長なんかおかしくなかった?タルット副隊長の側で、じっと地面ばかり見てて」
端から見れば落ち込んでいるようにも見えるヴィクナの姿が目に浮かんだ。森を抜けたヴィクナは、魔力を失ってしまって戦うことが出来なくなっていた。なので、タルットが側で護衛をしているのだ。
そんなヴィクナは明らかに気落ちしていた。一回目が合ったが、普段は微笑み返してくれる彼女は早々に目を背けて関わりを持とうとしない。それが苦しくて、シルハはレイチェルの言葉に何とも答えることが出来なかった。自業自得。そんなのは、冷静になった頭でならわかる。ヴィクナが自分に対して怒るのは当然で、そのシルハに対する態度も当然で。苦しがるなんてエゴイストもいいとこだ。でも軋む胸の痛みが止められなくて、シルハは曖昧な笑みをレイチェルに向けることしか出来なかった。
「シルハ君?」
レイチェルはそのシルハの笑みに引っ掛かりを覚えたのか、困惑したように眉を下げ、首を少し傾けながら覗き込むようにシルハの顔を伺う。シルハは小さく首を横に降って何でもないという意志表示をすると、いつの間にか細くなった残光に目を向けた。赤い空が終わりを告げ、闇に包まれた夜が始まりを迎える。終わりと始まりを何時までも繰り返す空を見ると、黒い闇に一筋の光が昇った。
パァーン――
ある程度の高さまで光りの筋は昇ると、火花と共に爆音を響かせて空を一瞬黒以外の色で染め上げる。
「終わったな」
シルハとレイチェルが空を見つめていると、背後から声が聞こえ、2人は同時に振り返った。
背後にいたのは、黒に身を包み、闇に身を溶かすかのように同化して見えたルイと、横に並ぶマーダ。打ち上げられた、終わりを告げる花火に、2人とも空を見上げながら立ち尽くしていた。
「そうだね。疲れた…」
シルハはそう言うと目を伏せた。
「うん…帰ろう」
レイチェルはシルハの言葉に頷きながら、疲れたように息を吐き出す。それから、テントが張られた高台に向かって歩き出した。ルイやマーダもそれに続く。シルハは暫く3人の後ろ姿を見つめてから、ゆっくり足を踏み出した。

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あきゅろす。
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