彼の所在は安堵へと
歩き出したシルハとマーダ、そして少し先を歩くタピスとの間に会話は生まれず、時折吹く風に揺れる木々だけが、先程までとは違い穏やかに歌を歌う。気まずさだけを残しながらついに出口を見たシルハは無意識にホッと一息ついた。
森を完全に抜けると、先に出ていて自分が抜けるのを待っていてくれたタピスに向かって一礼をした。それから任務続行すべく、平野に足を運ぼうとタピスに背を向け歩き出そうと足を前に出す。
「さっきの話」
その時急にタピスは口を開き、シルハはピタリと足を踏み出す運動を止めてタピスへ振り返る。タピスは間をおくように口を閉じたが、またすぐ開いて声を紡いだ。
「後で聞くから…今は敵の殲滅に努めろ」
鉛を飲んだような心が急に浮上したようだった。
未だにヴィクナがどう感じているか気になる。申し訳ない、でもどうすればいいかわからない。
だがこの人に聞いてもらいアドバイスをもらえば、何か答えが見つかるのではないかと感じたのだ。
「はい!」
タピスの言葉に少し口元に笑みを浮かべながら頷くと、タピスにもう一度頭を下げ、シルハはマーダの手を取ってある場所を目指す。走っている最中、聞き慣れた声が自分たちの名を呼ぶのが聞こえ、シルハは横に顔を向けた。
「シルハ君!マーダ君!!」
「レイチェル!!ルイも!!2人とも大丈夫!?」
自分たちの方を向いて大きく手を振る薄紫色の髪をした少女と、その後ろで少し疲れたような顔をした黒髪の青年がしゃがみ込んでいるのが目に入る。シルハはマーダの手を引いて、2人の所へ駆けていった。
「私たちは大丈夫だよ。2人も無事そうで良かった」
レイチェルはホッとしたような表情をしながらにっこりと微笑む。ルイは下ろしていた腰を上げてシルハ達を迎えた。
「大丈夫なのか?」
シルハの腕を見たルイが顔を顰めながら尋ねてくる。曖昧な笑みを浮かべながら誤魔化すと、レイチェルは心配そうに眉を下げた。
「痛そう…どうしたの?これ…」
レイチェルはまるで自分の腕が痛むかのように心底辛そうな顔をしながら自分の腕を押さえる。あまり心配掛けては申し訳ないと、シルハは自分の背中に腕を回してルイとレイチェルの視野の中から自分の腕を隠した。
「俺のは大丈夫!それより…」
シルハは笑顔で心配ないという合図を出してから森の方を見るめる。先程倒れたまま置き去りにしてしまった少年の顔を思い浮かべながら、シルハは彼の存在を探した。彼を置き去りにした、それは未だにシルハに不安の影を落としていたのだ。
「シル兄!さっきのお兄ちゃんなら僕が他の隊員の人に頼んできたよ」
マーダはシルハの思考を読んだのか、呪を食らって動かなくなってしまった仲間のヨフテの話をする。そのマーダから語られた内容にシルハは驚愕して目を見開いた。
「マーダ…本当!!?」
「うん!」
シルハの問いに元気よく頷くマーダに舌を巻く気持ちだった。幼いこの少年は、シルハを追いかけるにも倒れたヨフテをそのままに出来ないことを十分理解していた。だからおそらくたまたま側を通ったであろう隊員にヨフテの身を任せ、それから追ってきてくれたのだ。自分なんかよりずっとしっかりしている。幼くともずっと戦場に居たためか、そういう知識はしっかり身に付いていたのだ。
「あぁ…ありがとうマーダ」
シルハはかがみ込んでマーダを思いっきり抱きしめる。マーダはそのシルハの行動に嬉しそうに笑みを浮かべると、ギュッと背中に手を回して抱き返してきた。
「なんだかよくわからないけど…良かったね!」
2人の会話を理解できないルイとレイチェルであったが、この和やかな空気やシルハがお礼を言っていることからマーダが何か良いことをしたのだろうと察し、レイチェルは嬉しそうに笑みを作った。

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