嘲笑うように
森が静寂を取り戻した。
「…終わったのか…?」
タピスは森の方を見つめ、ふぅっと息をつく。額に滲んだ汗を腕で拭うと、もう一度深く呼吸をし、ゆっくり息を吐いた。
「行ってみるか…」
目を閉じて、ゆっくりともう一度息を吸う。体の奥から奥まで、全身に空気を送り込むように、視界を閉ざしてイメージを膨らました。
空気と一緒に、体の中を魔力が駆け巡る。過不足無しに、均一に。ゆっくり張り巡らされた魔力を、足を地に蹴り付けるときに瞬時に爆発させる。風を斬るように駆け抜けると、木々が突然の突風に身を揺らし、瞬く間に静かになった。
「っ……ぅうっ…!」
その時、突然胸が苦しくなる。足を地面に擦り付け、摩擦で勢いを殺そうとするが、タピスは殺し切れる前にバランスを崩し、前のめりに倒れた。
「がっ…!」
転がるように地面に何度も体を打ち付ける。痛みが至る所に走り、視界が何度も回った。
「あぁっ…くっ…ゴホッ…ケフっ…ゴホッゴホッ…」
やっと体が地に落ち着き、腕で体を支えて上半身を起こすが、直ぐに息苦しさで咳が止まらなくなる。吐き気に襲われ、タピスは無意識に口元を押さえた。
「ぅうっ…かっ…ゲホッ」
視界がグラグラと揺れ、それで酔ったのか胸がムカムカして気持ちが悪くなる。酸素を取り込もうと息を吸うために口を開くも、喉を通りきる前に咳によって一緒に吐き出された。
「はぁっ…はっはっ…」
咳がおさまってくると、瞬時に酸素を体に取り込む。汗が額から鼻筋に流れて来て、雫になって地面に落ちた。
ゆっくり酸素を吸い、汗でいつの間にかびっしょりと湿った体が、風を浴びて冷えるのを感じて、タピスは暫くその場に固まった。
「俺……」
先が怖くて、口先だけ動くも声がでない。霞んだ視界がさらに先を不安にさせ、どうしていいかわからなくなった。急に一人で真っ暗闇に放り出されて、誰もいない中でもがいているようだ。
どうなるんだ?――
漠然とした不安に目の前が暗くなる気がした。木々が嘲笑うように木葉を揺らす。
「っ…!」
タピスはその音が、何か聞いてはならないことを告げるような気がして、思わず耳を塞ぐ。
「…?」
その時、嘲笑う様な木々の笑い声に混じり、聞き慣れた少女の声が聞こえた。怒りに満ちたような、それでいて不安が篭っていて、自分のよく知る少女とは思えない弱々しい声。
「…ヴィクナ…?」
無事だったらしい。だが何かがおかしい。タピスは不振に思って立ち上がった。視界がグラリと揺れ、思わずよろける。手で目を覆って、ゆっくり呼吸をした。
空気を体の奥から奥まで、全身に送り込むように、視界を閉ざしてイメージを膨らます。空気と一緒に、体の中を魔力が駆け巡り、過不足無しに、均一に、ゆっくり張り巡らされた魔力を、足を地に蹴り付けるときに瞬時に爆発させ、少女の声が聞こえた方へ駆け抜けた。

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あきゅろす。
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