死なせない
闇の回廊。
それは空間と空間をつなぐ道。ドリミング本部につながったこの回廊の真っ暗な中で、ラクシミリアは自分を拘束していた人物の腕をふりほどく。それと同時に思い切りその人物の足を踏んでやった。
「いたっ!!何するんだよ!!」
その人物は片足でぴょんぴょんはね回り、踏まれた足を持ちながらさんざん痛がったパフォーマンスをすると、ラクシミリアを睨み付ける。だが、それよりも何倍も睨みをきかせたラクシミリアの双眸に、その人物は思わず口を紡ぐ。それを合図といわんばかりにラクシミリアは口を開いた。
「なぜ邪魔をした!!もう少しで…あの時貴様が来なければ私は…私は死ねたのに…!!」
ラクシミリアは顔を赤く染め、怒りの表情で怒鳴りつける。だが声は悔しさからか、少しうわずり震えていた。
「助けて文句言われるとは…」
オレンジ色の頭をした少年は、そのラクシミリアの言葉にやれやれと言った表情で頭をポリポリとかく。童顔が目立つ少年・ムーファは、クルリとした大きな目でラクシミリアを見た。
「いいか?お前は今ドリミング側の人間で、協力者だ。新しい世界を作るまで、お前は死んじゃならないんだよ!」
ムーファは前屈みになりながらゆっくりラクシミリアの脳に一回で内容が入るようにしゃべる。ラクシミリアは、そのムーファの言葉に眉間に深くしわを刻んだ。
「協力はしてやる。だが私の目的は自己の死。国の行く末などには興味ない」
ラクシミリアは噛み付くように言葉を放つ。ムーファもその言葉にむっとした表情になった。
「あのな!お前を殺すのはアイルさんだ!新世界を作って、契約が果たされるまではお前は生きるんだよ!」
「くどい!!私は死ぬために戦場に身を捧げた。私を終わらすのは誰であったってかまわない、問題は時間。一刻も早く終止符を打ちたいのだ!!」
ラクシミリア手を握りしめてムーファを睨み付ける。あまりに強い力で握っているせいか、小刻みに手が震えていた。
「私の死が訪れるまでの協力だ。最後まで付き合ってやる義理はない」
ラクシミリアは吐き捨てるように言うと、闇の回廊を出口に向かって歩き出す。ムーファは不機嫌そうに顔をゆがめながらしばらくラクシミリアの後ろ姿を見守っていた。
「お前には…まだまだやってもらわなきゃならないんだ」
ラクシミリアが呪術師になった経緯も、死にたい理由もムーファは知っていた。何百年も生き続けた人間の気持ちなんかわからないけど、死にたいと願う気持ちはわからないでもない。
だが、自分たちの計画には彼女の力は必須条件で、それを果たすまで死なれては困るのだ。
「悪く思うなよ。それまではどんなことしたって死なせないぜ」
ムーファはラクシミリアに聞こえないような小さな声でつぶやくと、彼女の後ろ姿を追いかけだした。

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