信じられぬ光景
ヴィクナは魔力を練ると、真っ直ぐラクシミリアを見た。
「アンタのために特別。アタシの全魔力を込めた攻撃をお見舞いしたげるよ。アンタはそれを避けないで呪術で防ぐの。どう?アタシが上まわればアンタは予期せぬ死を迎え、アンタがアタシを上まわればアタシのこと楽に殺せる。良い案だと思わない?」
ヴィクナの笑顔の提案にラクシミリアは眉間にしわを刻む。しかし考えてみると悪くもない。
「よかろう。その話…乗ってやる」
ラクシミリアもヴィクナを見据えると力を込めだしたのか、ラクシミリアの周りの色が黒くくすんだ。ヴィクナはそれを見てにっと笑うと勝敗を決すべく口を開く。
「アタシの最後の一撃だ」
ヴィクナの周りに漂う魔力が濃度を増した。
世界がまるで熱を帯びた空気を見るように揺らめき視界が歪む。目で感じられるほどの濃さをもった魔力を、ヴィクナは全神経をつかってコントロールした。
「《神の使いは審判を下す》」
ヴィクナの呪文念唱で、ついに魔力が形を形成して魔法となった。
巨大な光でできた槍がヴィクナの前からラクシミリアに向かって、超高速で放たれる。
「《必花絶滅(ひっかぜつめつ)》」
ラクシミリアも同時に呪文を唱えると、ヴィクナの放った魔法が真っ黒いもやに阻まれ、ぶつかった衝撃でそこから強風が吹き付けた。
煌々と輝く光の槍はラクシミリアに向かってなおも力を増しながら進む。それを阻む黒いもやもまた、大きく広がりながらラクシミリアを守るように渦巻いていた。
しかし光の槍の力が黒いもやを凌駕したのか黒いもやを突き抜け、先が少しラクシミリアの目の前に突き出る。ラクシミリアが驚いて目を見開いた瞬間、光の槍は黒のもやを突き抜けてラクシミリアに向かって突き進んだ。
「終わりだね」
ヴィクナはその瞬間に小さく呟く。ラクシミリアに真っ直ぐ向かった高速の槍。簡単に交わせるスピードではない。これでラクシミリアは間違いなく吹き飛ぶであろう。
ヴィクナは魔力を使い切ってだるい体を支えながらラクシミリアを見た。
その時、激しい爆音と共に爆風がヴィクナを襲う。あまりに強い風に体勢を保つことが出来ずに、ヴィクナはそのまま数m吹き飛ばされた。
「なっ…!!」
風が止んでから、ヴィクナは何が起こったかわからず、真相を確かめるべく急いで顔を上げる。遠く放れたところに、同じく吹き飛ばされ、訳がわからないというように目を見開いたラクシミリアが、上半身を起こして辺りを見回していた。
「き…貴様…」
ラクシミリアはどうやらこの爆風の原因を見つけたらしい。目を見開いて驚愕の視線を送る先をヴィクナは目で追った。
「な……」
ヴィクナは視線の先に居た人物に言葉をなくす。思考が停止して何を言えばいいかわからなくなった。
「何してんだよ…」
その人物に向けた声が、震えてうわずった。それが怒りのためか、はたまた別の感情か、しかし間違いなくヴィクナの心は動揺していた。
自分は他にも消費していたとはいえ今残った魔力を全てラクシミリアにぶつけたはずだ。だが届いたと思ったラクシミリアは全くの無傷。その原因は1つしか思いつかない。
だが、それを目の前の人物がやったとは到底思えなかった。
第一理由がないし、そしてそんなことが出来る力を持っているとは、今はとても思えない。
「シルハ…」
ヴィクナが名を呼ぶと、銀色の髪を風になびかせた少年は、ゆっくりヴィクナの方を見てきた。

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あきゅろす。
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