予期せぬ死
ラクシミリアに向かったヴィクナは真っ正面から彼女に突っ込む。ラクシミリアも真っ向勝負を受ける気になったのか、手を左右に開いて黒いもやを辺りに浮かべさせた。
「《強き意志は絶対の力》」
ヴィクナはラクシミリアと衝突手前で呪文を唱えてから、踏み出した足に力を込め進路を変える。ラクシミリアに真っ直ぐ向かわずに手前で左に踏み切ると、木が密集した場所に足を踏み込んだ。
ラクシミリアが驚きで目を見開くのを横目で見ながら、ヴィクナは木の幹を腕でとらえ、木をポール代わりにして勢いづいた体を遠心力に任せて回転させる。そのままその隣にあった木を蹴り付けると、呪文によって鉄の固さになったヴィクナの足と、遠心力によって生まれた力によって木の幹は簡単に折れた。
その幹は、真っ直ぐラクシミリアの前に倒れていく。ラクシミリアは慌てずに、木を見ながら言葉を紡いだ。
「《黒光砂変(こっこうしゃへん)》」
ラクシミリアは呪文を唱えながら腕を掲げる。すると、ラクシミリアの周りを囲んでいた黒いもやが輝きを放ちだし、帯状になって木を捉えた。
包み込まれた木はあっという間にジグソーパズルのピースのように割れ、砕け落ちて砂と化す。黒い光の帯は、木を砂に変えても行動を止めようとはせずにヴィクナに向かってきた。
「砂になるのは勘弁!」
ヴィクナは慌ててその光の帯から逃げるように後退する。光の帯は、通り道の木々を砂に変えていきながら何処までもヴィクナを追いかけてきた。
ヴィクナは光の様子を見ながら走る。木の間をすり抜けて、出来るだけ木という障害物を自分との間に置くように走った。ラクシミリアはその様子を見てからすぐに死神の方へ目を向ける。死神が地面についた手を放し、ゆらりと不気味に立ち上がる姿が目に入った。
「よそ見なんてよっゆ〜」
突如背後から声がして、ラクシミリアは驚いて振り返る。いつの間にか背後に迫っていたヴィクナの姿が視野に飛び込んで、ラクシミリアは反射的に地を蹴ってヴィクナから距離を取ろうとした。
「おっと!逃がさないよ」
ヴィクナはラクシミリアの行く道をぴったりとついていく。ラクシミリアよりもヴィクナの方が身長もあり、どうやら足も速いらしい。簡単に間を詰めたヴィクナはラクシミリアの腕を押さえた。
「つかまえた」
ヴィクナの無邪気な笑顔がラクシミリアの視界を支配する。しかし、声は少しも笑みを含んで居らず、声と表情の温度差に体が一瞬こわばった。
ヴィクナもラクシミリアも動きを止め、しばらく睨み合うような体勢になる。はっと気づくと、ヴィクナの背後、そして自分の目の前に光の帯が見え、今正に自分たちに絡み付こうとしていた。
「《呪術解除》」
ラクシミリアが叫ぶように声を出すと、黒光りした帯は真っ白に発光してはじけ飛ぶ。余りの眩しさに、ラクシミリアの腕を掴む手の力が思わず緩み、ヴィクナは目を細めた。
その機会を逃さずにラクシミリアはヴィクナの腕を振り払い、後ろに飛んで距離を開けた。
「あ〜眩しかった…しっかしラクシミリア。あんた死にたい宣言してる割には必死で生きようと戦うんだね」
ヴィクナはまだ眩しさで白黒する目をこすりながらラクシミリアに言い放つ。それは素直な疑問ともとれるし、また挑発じみた声色もしていた。
「私は自らの意志で死を望む時、呪術に守られ死ぬことが出来ない。私が死ねるのは予期せぬ死が舞い降りた時のみ。生きるために全力で戦っている時の死こそ、唯一の方法なのだ」
ラクシミリアはそんなどちらともとれるヴィクナの態度をさして気にする様子もなく淡々と言葉を紡ぐ。ヴィクナはふ〜んと言うと、魔力を込めだした。
「じゃ、予期せぬ死をプレゼントしたげるよ」
にっと顔に笑みを広げる。その顔を見てラクシミリアは嘲笑を浮かべた。
「貴様に出来るなら…やってみるがいい」

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あきゅろす。
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