効く効かない
確かに手応えはあった。
肉を裂く感覚が武器を介して手に伝わってくる。今まで数多の人間を切ってきた時に感じたのと同じ感覚。殺った。それをザルディは確信的に感じた。
全てを切り裂くと、重力の力を借りて未だに勢いが落ちないハンマーアスクは地を抉る。地面が粉砕して四散し、陥没した地面は土肌を露わにした。
真っ二つに割られた死神の体は、バランスを失い左右に分かれる。地に近づいていく体の切断部を見て、ザルディは目を瞠った。
それは大量の蛇だった。ドシャリと音を立てて地に付くと、ローブの中から一斉に蛇が飛び出してくる。ザルディはそれを振り払おうと、慌ててハンマーアスクを構えようとした。
しかし、ザルディのハンマーアスクは地に付いたままビクともしない。勢いよく顔をハンマーアスクに向けると、槌の部分に立つ足が見えた。ザルディは視線をあげて自分の武器の上に乗るモノの姿を見る。
闇のような髪は風に揺れ、色のない肌は不気味に存在感を放つ。さらにその白によって強調された金色の瞳が、感情を持たずにザルディを見下ろしていた。
『喰われろ』
それは背筋が凍るような不気味な声。擦れ、声帯が上手くならせずに空気だけを振動させたはっきりとしない、それでいてきっちり耳に届く声にザルディの額から汗が流れた。
初めて顔の筋肉を動かした死神が不気味な声を出すと、ザルディの首筋に痛みが走る。次々に体に突き刺されるような痛みが走って、ザルディは現実に引き戻された。
先程の蛇がついに自分の体に食いつき、皮膚を突き破り牙を容赦なく肉に触れさせてくる。
「こんの糞が!!!」
ザルディは一気に自分の周りの重力負荷を大きくした。自分の周りの重力を増やしても、術者であるザルディは全く影響を受けない。しかし食らいついてきた蛇たちは、急激に掛かった負荷に耐えきれずに次々に地に叩き付けられ、あまりの重さに体を破裂させて肉塊と化した。
ザルディは全て落ちたことを確認すると、すぐ死神に視線を戻す。未だに槌の上に乗っている死神を見て、ザルディは気合いを込めた。
「俺様の武器に乗るんじゃねぇ!!」
先程までビクともしなかったハンマーアスクを、腕の力に任せて思い切り振り上げる。地から少しハンマーアスクが放れた時、死神はバランスを崩す前に跳躍して後ろに飛び退いた。
ハンマーアスクの自由を得ると、ザルディはふうっと一息つく。噛み付かれた首筋や腕、足からは血がこぼれ落ち、地味に熱を放っていた。
「けっ…。楽しませてくれんじゃねーの」
ザルディはもう一服キセルの煙を吸い込むとふうっと息を吐いた。
幻術がいつの間にか溶けている。いや、もしかしたら初めからかかっていなかったのかもしれない。しかし、今重要なのはそんな事じゃなくて
「幻術は効かねぇ重力も無意味。どうしたらいいか全部やってやろうじゃねぇか」
ザルディはにっと口角をつり上げて笑みを作ると死神を双眸で見据えた。
未だ死神は表情を作らない。無感情な金色の瞳にザルディの姿を映し、死神は静かにその場に立っていた。

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