駄目なんだ
死神とついに激突がなされる。ヴィクナ達より少し離れた場所で死神は鎌を振り下ろした。真っ黒な鎌から、黒いまがまがしいオーラを纏ったエネルギー波がヴィクナ達に向かって飛んでくる。ザルディはシルハを、ヴィクナは呪いで硬直したマーダを抱え、波動を避けるために跳躍をした。
黒い波動は一気に木々を粉砕していく。破壊された木の幹が、木片を散りばめながらバキバキと悲鳴をあげた。
それもつかの間、散らばった木片がサッと砂に変わる。砕かれた木も、破壊された部分からどんどん砂に変わっていき、白く砂の山に姿を変えてしまった。
「わぉっ。力も死神ってわけね」
ヴィクナはそれを見てヒュ〜っと口笛を吹いた。ザルディもキセルを噛みながら、砂の山と真っ黒な鎌を交互に見る。口の端を上げニヤリと笑うと、ザルディは左腕に抱えたシルハへ視線を動かした。
「おい、銀髪少年」
「は…い?」
急に話しを降られ、驚きながらシルハは反射的に声を出す。だが、叫びすぎたのか、喉の痛みがひどく、上手く声に出来ずにかすれてしまった。
「お前担いで戦うのはなかなか厳しそうだ。必死こいて自分の事守ってろ」
そういうと、シルハを抱えていた左腕の力を緩める。そのせいで、シルハはボテッと地に転がった。
「あてっ」
シルハは痛みでちょっと声が出る。少し力が入るようになり、シルハは腕に力を込めて上半身を起こした。
「じゃ、ちょっくら殺ってくるわ」
ザルディは一回キセルをふかすと、ハンマーアスクを抱えて死神に向かって走り出した。
「あ…」
シルハは必死に手を伸ばして、ザルディの着流しの裾を掴もうとした。
だが、ザルディの姿は直ぐ届かない場所に行ってしまう。伸ばした手は空をただ漂うだけで、触れようと伸ばした指は虚しく掌に収まっていくだけ。
口を開くが、先程のように声が出てこない。
「…駄目…」
かすれた声で振り絞れた言葉も、駆け抜けていったザルディの耳には届かない。
「殺さないで…!!」
必死に振り絞る。
声を、思いを。
絶対、ラクシミリアを殺してほしくなかった。彼女は何も悪くないのだ。彼女は、幸せを壊されて、それ以来幸せと掛け離れてしまった可哀相な少女なのだ。
また、幸せを手にする前に死んでしまっては、あまりにも報われない。何か方法を探して、彼女がまた、優しく笑えるようになるまで…。
「駄目…!」
どんなに叫んでも、シルハの声は誰にも届かない。ラクシミリアの心にも、こんな風に届いていないのだろう。自分の声なんてあまりにも小さくて、自分の力なんてあまりにも小さくて。それでいて思想だけは必死に働いて、それを見つけるためにただただ必死にもがく。
だが自分のもがきなんか、一体どれだけの力があるのだろうか。目の前の人を止めることすら出来ずに、口だけは一人前で。そんな自分に激しい憎悪を抱く。
駄目なんだ…これじゃ……
シルハは前を真っ直ぐ見据えた。ヴィクナとザルディが死神と戦う姿が目に映る。フラフラする足を必死に鞭を打ち、シルハは気力で立ち上がった。
「駄目なんだこれじゃ」
シルハはその様子を見て、目の色に力を込める。ヴィクナは理由がない戦いは悲しいと言うけど、シルハに言わせれば、この戦いだって悲しいのだ。虚しいのだ。
シルハは足に力を込めると、戦場に向かって走り出した。

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