道標
「ファンタズマが掲げし戦思想だよ」
ヴィクナの言葉に、シルハだけでなくラクシミリアも耳を傾ける。ヴィクナはいつもの軽い口調で流れるように語った。
「『全ての戦に理由を、全ての戦に意味を。全ての戦で糧を、全ての戦で心を。』」
ヴィクナの紡がれる言葉に、ラクシミリアは眉間のシワを深く刻む。シルハは歌でも聞くような感覚で、その語りを聞いていた。
「『全ての戦で、全てを。無ほど』――」
虚しき物はこの世にない。
全ての戦に理由を持ち
全ての戦に意味が在り
全ての戦を糧として
全ての戦で心を育む
それは少しは希望を燈す。
全ての戦に理由がなく
全ての戦に意味もなく
全ての戦が糧にもならず
全ての戦で心が朽ちる
それはなんとも虚しく悲しい。
「こんだけ戦に埋もれた生活してるとね、これが意味をもち、これが戦う理由、希望になる。アタシ達に光を燈すんだ」
ヴィクナは朗々と語る。それは、戦う為に生きてきた人には道標になっていた。
相手を殺す
則ち、相手の全てを強制的に終わらせる。
それは時に、戦うものの重しとして、ズンと心にのしかかるのだ。
それを支えてくれるのが、理由や意味であり、糧をもたらすことで自分を守る力を手に入れ、戦で起こることで、悲しみや喜びを、心を育む。
それは決して感情を殺した戦闘人形にはならず、心を持って、相手を殺す。心を持つことで、相手を理解し、その上で、全てを背負って戦う。
全て無い戦い等、意味が無く、ただ、奪い奪われるだけのモノの戦いになってしまう。
それでは、命を懸けた双方が救われないのではないか。
「この戦い。ファンタズマとドリミング、思想が違いし2つの勢力のぶつかり合いは、それだけで意味を持つ。あんたが強ければ強いほど、乗り越えればアタシは強くなれる。あんたの意志を聞き、戦うことで心を育む。こんな戦い、そうそう無いからね。アタシもザルディも興奮しちやったわけよ。そしてね…」
ヴィクナはラクシミリアとの戦いについてスラスラと意義を述べていく。一旦言葉を切ったかと思うと、彼女はニコリと口元に笑みを広げた。
「アンタにはうちのバーサーカー達がお世話になったみたいだからね。こちとら殺り合いたくてピリピリしてんの」
口元に広げた笑みはそのまま、眼は氷のように凍てついてラクシミリアを見据える。ラクシミリアはそれを見てクスリと笑った。
「なるほど…貴様らの言い分は分かった。意味か…そうか…」
終いの方は消え入りそうな程小さく呟く。ヴィクナとザルディは、主張を終えたのか、戦闘体制に入り、魔力を練り出した。
「貴様らに意味があるなら、私にもこの戦いに意味が…理由がある」
それはいたってシンプルな、しかし他人には理解されがたい感情。
長い時を生きた彼女だから持ち得る、悲しい悲しい負の感情。
それは、一刻も早く
「私を殺してもらう為だ!!」
ラクシミリアの叫びのような痛々しい声に反応し、ついに死神が、柄の先に髑髏の飾りが付いた真っ黒な巨大鎌を振りかざし、ヴィクナ達に突っ込んで来た。
ザルディはキタキタ!と軽く呟きながらハンマーアスクを死神に向ける。ヴィクナはクスリと笑うと、愛用の箒"ゲイル"を握る力を強め、ラクシミリアに聞こえるか聞こえないか、小さな声で囁いた。
「お望みのままに、ラクシミリア」

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あきゅろす。
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