闇にも似た気配
「ん…?」
タピスは森から何かを感じ、思わず振り返った。何か嫌な気を感じる。おどろおどろしいような、不気味な感覚に鳥肌が立った。
「ラクシミリアか…?」
魔力の波動ではない。もっと別の、黒くて冷たくて、先が見えない闇にも似た感覚の何か。
あぁ…なんと
暗く悲しい力なのだろうか
闇にもにた波動から
僅かに感じる悲嘆の色
タピスが森を見つめていると、突如背後から気配を感じる。
急いで振り返ると、男が剣を構えて立っていた。
だがタピスはその男を見て動かない。そしてその男も、タピスと目が合っているにも関わらず、全く動こうとしなかった。
男は、しばらく黙っていると、少し開いた口からスーッと、赤い液体が零れ落ちる。そのままタピスの方へグラリと体が傾き、そのまま紐に引かれるかのように真っ直ぐ地面に落ちた。
「これで貸しね!タピス」
「ざけんな。テメーが殺んなくても俺がやられたわけねーだろ」
男が倒れると、重なるように立っていた女が姿を現す。にっと嬉しそうに笑う人物に、タピスは「ちっ」と舌打ちをした。
「でもこのミクちゃんに助けてもらった事実は変わらないでしょ?」
ミクはタピスを助けたことが相当嬉しいのかニヤニヤ笑い続けてる。タピスは顔を歪めて、嫌そうな顔をした。続く言葉は容易に想像できる。どうせフロウィと2人キリにしろとかだ。
「だからフロウィと」
「絶対駄目無理有り得ない」
ミクの言葉を遮ってタピスは両手で×を作りながら早口で否定する。ミクは作っていた笑顔を不機嫌そうに変えて、タピスを睨み付けた。
「何それ!助けてあげた人に対してそれってすっごく失礼じゃね?」
「うるせえ。助けなんか必要なかった」
ギャーギャー喚くミクに冷静に言葉を投げ掛けてから、タピスは森を見た。
「コラ!私を見ろ!!事実は事じ…」
「タピス!!」
またミクの言葉を遮って誰かが名を呼ぶ。ミクは怪訝そうに声がした方を見たが、次の瞬間、パッと顔を明るくした。
「キャー!!私の私の可愛いフロ…」
「フロウィ、どうした?」
「うん…なんか森が嫌な感じがして……」
フロウィの登場に、両手を広げて抱き着こうとしたミクを蹴り飛ばして、タピスはフロウィに語りかける。フロウィは一回ミクを見たが、毎度の事なのかクスリと笑ってからタピスに真顔で声を掛けた。
タピスも頷くと、もう一度森に目をやる。フロウィも一緒に目をやった。
「ラクシ…ミリア?」
「かもな…」
「行かなくていいの…?ここは大丈夫だから…。ゲルゼールの皆でなんとかするわ」
フロウィはタピスの方を見て心配そうに眉を下げた。
「大丈夫だ。ヴィクナとザルディが行ってるはずだ」
「でも…」
「ゴルァ!!タピス!!人を足蹴にしやがって…!!」
フロウィが何かを言いかけると、急にミクがガバリと起き上がって来てタピスの耳元で怒鳴り付ける。耳元の罵声に、タピスはキーンっと高い耳鳴りがした。
「ねぇ聞いてよフロウィ〜〜!タピスったら顔だけじゃなくて性格も最悪なの〜!!女は国の宝なのに足蹴にするなんて男として顔も態度も最低よぉ!!」
ミクは直ぐに泣き顔になってフロウィにしがみつく。ミクを一発殴ろうかと拳に魔力を込め出すタピスを片手を上げて制し、フロウィは困ったような顔をしながらミクの頭を撫でた。
「ねぇミク…?森から嫌な感じ…しない…?」
「森ぃ?」
フロウィの言葉にミクは森に目をやる。次第にミクの体が頑なっていくのを、抱き着かれているフロウィはひしひしと感じた。
「やだ…なんだろうこれ…?」
ミクは目を見開きながら森を凝視し続ける。フロウィは微かに震えるミクを見てからタピスに目線を動かした。
「行った方がいいと思うわ…」
フロウィも心配なのだろう。ヴィクナから、ラクシミリアの話を聞いて、彼女は他の人より"呪術師"についての情報を持っている。森から感じる嫌な感じに怯えていた。
タピスはフロウィから視線を外して森を見る。
「行かない」
「タピス!?」
紡がれた言葉にフロウィは目を丸くした。タピスがこの空気を感じていないわけがない。それなのに行かないと言う答えが出て来るとは全く予想していなかった。
怖いなんて彼は言わない。寧ろ人からその恐怖を避けるために自分から恐怖に向かっていくタイプだ。
「行かねぇよ。俺はこっちの担当だ」
タピスはゆっくり言葉を紡ぐ。フロウィはわからないと言う風に眉を下げた。
「だって…ヴィクナちゃんやザルディ隊長が…」
「心配してねぇよ俺は。あいつらなら大丈夫だろ。妙な奴らだが実力はある。それに…」
タピスは森からまたフロウィに視線を戻しながら言葉を続けた。
「俺はもしもの時の最後の砦だ」
もしウィクレッタ二人がやられたとき、バーサーカーやアンケルを守る最後の砦。タピスの言葉をやっと理解したフロウィは、少し心配そうに森を見てから力強く頷いた。
「安心しろ。やられないって、あいつは約束した」
ポンとフロウィの頭に手をのせる。フロウィはそれで笑顔を取り戻した。
「うん」
にっこりと笑みを作って嬉しそうに頬を赤らめる。そのフロウィの顔を見て、ミクは詰まらなそうに眉を吊り上げた。
「フロウィ〜!何の会話!?ミクちゃんついていけない〜!!このやな感じは何なのさ!」
ミクはフロウィにしがみつく強さを強めながら喚き出す。フロウィが締め付けが強くなって少し苦しそうな顔をしたので、タピスが無理矢理ミクを剥がした。
「ミク、後で話すわ。今は一緒に戦いましょう」
「一緒に!!?勿論よフロウィ〜☆がんばりましょ!」
うれしそうなミクの顔を見て笑顔でフロウィは頷く。そうだ、今は無事な事を信じて自分達の仕事をこなそう。
「じゃぁね、タピス」
「あぁ」
挨拶を交わすと、フロウィとミクは戦場へと戻っていく。タピスはそれを見てからまた森に目をやった。
嫌な気配が濃さを増す。まるで森自体が闇に飲まれているかのように黒く見えた。
「死ぬな」
小さく呟いてからタピスも戦場へ身を投じる。黒くなる森がどんどん離れていった。
闇にも似た気配だけを強めながら

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あきゅろす。
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