死神
ザルディは気合いを込めると共にハンマーアスクを振り回す。
「《重なりし物は強者(つわもの)を滅す》」
念唱と共に振り回した武器のハンマーの方面である鎚の部分を地面に叩き付ける。それと共に、辺りの空気がズンと重くなった。
ラクシミリアは急に自らの身体に増えた付加に地に手を着く。
「あらら〜?意外に簡単に取れちゃいそうだね」
その時後ろから声がした。
金髪の少女の、飄々とした声。
「《我が風は刃と化す》」
ヴィクナは呪文を唱えると手に持つ愛用の箒、ゲイルの回りに風を帯び始めた。勢いよく起こる風の流れで気圧の変化が起こり、ゲイルの回りで鎌鼬の様に風がうねりをあげる。その箒をラクシミリアの首を目掛けて振り下ろした。
「お首頂戴♪バイバイ"呪術師"さん☆」
勢いに任せてヴィクナはラクシミリアの首筋に正確に刃物と化したゲイルを振り落とす。ラクシミリアはそんな迫りくる気配を背後に感じながら小さく口を動かした。
「《接火滅消(せつかめっしょう)》」
ラクシミリアの首筋にゲイルが触れる。
その瞬間、ゲイルが急に激しく燃え上がった。
「おわっ!」
柄の部分まで一気に燃え上がり、ヴィクナは咄嗟に手を放した。
ボドリと落ちた箒は、辺りの草を巻き込みながら燃え上がる。一気にヴィクナとラクシミリアの間に炎の壁が生まれた。
「ヴィクナ!ったく」
ザルディはハンマーアスクを背に担ぐように片手で構えると、ラクシミリアに突っ込んだ。
「《何人たりとも潰し去る》」
ラクシミリアの頭の真上にハンマーアスクを振り落とすと、ラクシミリアが急に顔を上げた。
「《死神鎌乱(しにがみかまみだれ)》」
ラクシミリアの呪文と共にラクシミリアの身体から黒い光の帯が飛び出す。それはラクシミリアに振り下ろされようとしたハンマーの動きをいとも簡単に止め、絡み付く。絡み付いた帯は次第に手の様な形に変わっていき、巨大なハンマーを押さえる巨大な腕へと姿を変えた。
ラクシミリアの身体から放たれた光は、ラクシミリアの身体から地面に吸い込まれるように落ちて行く。地面が黒光をしだすと、その光から出来た腕も地面から生えるような形になった。
その途端に、ザルディの武器を押さえていた腕に力が篭る。
「おわっ!!」
ザルディは急に力が加わった腕に反応できず、ハンマーごと後ろに吹き飛ばされた。
「ちっ!」
ザルディは足の裏で地を擦り勢いを殺し、止まるとラクシミリアの前に生えた腕をを睨み付ける。
「《天よりの雫は全てを治める》」
ヴィクナも、目の前に広がった炎を消すべく呪文を唱えると、炎の壁の真上から急に大量の水が流れ出す。激しい音と真っ白な煙を出して、激しく燃え盛る炎は消された。
しかしそのために炎の側に居たラクシミリアと腕の姿が煙に巻かれ見えなくなる。シルエットが浮かび上がった時、ヴィクナとザルディは目を見開いた。
巨大な腕は地面に手を付き、ぐっと力を込める。その力によって、地面からズルリと頭が飛び出した。そのまま胴体、足、腕の持ち主の全景があらわになった。
黒光した身体は次第に光を失うと、煙りが去ると共に姿を現した。
ボロボロに裾が擦り切れた真っ黒なローブを纏い、顔には獣の顔のような真っ白な面を付けている。肩から腰に掛けて鎖を巻き付け、ジャラリと音がなった。
巨大だった身体は次第に成人男性程になり、全身を包む長いローブから、10p程伸び、真っ黒に塗られた爪を持った、色が抜け落ちたような手が姿を現した。
その掌に真っ黒な光が姿を現し、その姿を巨大な鎌に代えていく。
その姿は正に
「あらま。死神様のお出ましかね」
ヴィクナは現れたモノの姿を見て苦笑いを零した。

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