暗澹の涙
シルハは硬直した。
ラクシミリアの話はあまりにも残酷だったから。
愛する者を全て失い
永遠の時を刻み続ける。
自分より幼かった者が自分の年を越え死んでいく。
それをただ1人で見つめ続けた。
それはどんなに心細く、怖かっただろうか
誰1人として彼女の気持ちを理解できる者などいない。
自分も含め
彼女の気持ちを測り知ることなど出来ないのだ。
『私を殺しやすくするためだ』
それは確かに本心
彼女の望みは自らの"死"。愛する者達の所へ一刻も早く向かうこと。
その気持ちは、他人のシルハにも理解できた。
どんなに寂しかっただろうか?
自分が永遠の時を刻むことを知って、彼女は人との接触を避けたに違いない。
どんなに寂しかっただろうか?
どんなに怖かっただろうか?
だけど…――
「だけど…そんなの悲しすぎるよ……」
シルハの頬を透明な滴が伝った。それを見てラクシミリアは一瞬驚いた顔をする。だがすぐに険しい表情を作った。
「悲しいものか!!私にしてみればこの腐った世の中の方が悲しい!!」
ラクシミリアは叫ぶように声色を荒げながらシルハを睨む。だがシルハは相変わらず悲しそうに濡れた瞳でラクシミリアを見た。
「悲しくないよ…確かに…多くの血を流すこの世界は汚いかもしれない…。でもそれ以上にたくさん綺麗なことがあるんだ!!」
そう、ラクシミリアが彼と見た星空のように、あの朝日のように、自分を愛した人々のように…。そして、シルハを取り巻く環境も、シルハにとっては綺麗で美しかった。
生きながらにして死を望むなんて悲しすぎる。
絶望で瞳を濁らせて、美しく彩られたこの世界を白黒の世界にしてしまうなんて悲しすぎる。
「呪のことをもっと調べよう?1人だけじゃわかんないかもしれない、でも、たくさんの人で考えれば方法が浮かぶかもしれない!まだ…まだ諦めちゃ駄目だよ…!」
そうだ、今までずっと1人で考え無理だったのなら2人で考えればいい。それでも駄目ならもっとたくさんの人間で考えればいい。まだ、シルハはラクシミリアに色を失って欲しくなかった。
過去の愛した人を忘れろなんて言わない。自分だってまだ大好きだった父を忘れてなどいないから。
でも生きているならそこだけに縛られて欲しくなかった。
「生きてるんだから…」
死んでしまい、笑えなくなってしまった人達のためにも
「もっと笑って生きれるように」
せめて…自分だけでも……
シルハの瞳から涙が溢れる。まるで自分のことのように苦しそうな顔をしながら。
笑えないのは……とても苦しいこと
「…るさい…」
シルハの顔をしばらく睨み付けていたラクシミリアはほとんど口を動かさずポツリと言う。
「うるさい…うるさい…」
顔を伏せ、次第に口の開閉を広げていく。
「うるさい!!!!」
金切り声で叫ぶと、今まで動きを止めていた腐死人が急に動き出してシルハとマーダに襲いかかった。
「シル兄!!」
マーダはシルハに危険を告げ、シルハの服を引っ張る。だがシルハはまるで動こうとはせず、ただラクシミリアを見つめていた。
そして一瞬だけ見たのだ。
彼女の泣きそうな顔を
涙など決して零しはしない
だがシルハは感じた
あぁ…そうか……――
彼女も……苦しくて、悲しいんだ
笑いを失ったことが悲しいんだ
だから彼女は泣くのだ
心の中で暗澹の涙を流すのだ
助けて、と
心の中で叫ぶのだ
「うん…探そ?」
シルハはまっすぐラクシミリアを見つめながら一筋の涙を零した。
まるで彼女の変わりのように
シルハは透明な涙を瞳から流した。

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