運命の日
彼女の幸せを約束されたその日は正に『運命の日』と言うのにふさわしかった。
彼と初めて見た朝日はすでに空高く登り、日の光として地上に光を注いでいる。ピンクが基調とされた柔らかく可愛らしい部屋の鏡台の前で、ラクシミリアは服を選んでいた。
30分後には自分のバースデイパーティーが開かれる。親戚と友だちをたくさん招待しての盛大なパーティーへのおめかしは念入り。起こされてから1時間30分間、洋服を選ぶのに躍起になっていた。
彼がくれた赤いバラのコサージュがよく似合う服。選びに選んだその衣装をやっと身に纏うと、彼女は満足したように微笑んだ。
鏡台の前の椅子に座り、鏡の中の自分と睨めっこをする。見つめていると急に笑いがこみ上げてきて、2人して同時に笑った。だって、鏡の中の自分があまりにも喜びで緩んでいて間の抜けた顔をしていたのだ。きっと自分の顔を見た鏡の中の自分も、あまりの間抜け面に吹き出してしまったのだろう。
笑いが治まってからまた真面目な顔を鏡に向ける。そうすれば、鏡の中の自分も真面目な顔をして自分を見つめてきた。ラクシミリアはそれから頬の筋肉をつり上げて上品な笑みを作る。たくさんの人の前でたとえ緊張しても笑顔で対応できるように。だがそのわざとらしい自分の笑みに、鏡の中のラクシミリアは不服そうに眉を潜め、顔を歪めた。
そのままそんな不細工な自分から目をそらして鏡台の上に置いてあるコサージュに目をやる。壊れ物を扱うような手つきで優しくそれを手に取るとゆっくり髪へ添える。バラのコサージュを付けただけで、自分が凄く輝いて見え、ラクシミリアは今度は満足そうに満面の笑みを浮かべた。
「ラミア、そろそろよ」
ドアのノックの音と共に母親の声がする。
「はい」
ラクシミリアはドアに向かって返事をし、もう一度鏡を見てチェックを入れてから部屋を出た。
「ラミア」
「お父様!」
1階に下りると、普段仕事が忙しく、なかなか会えない父が自分を見て嬉しそうに微笑んでいる。ラクシミリアはそんな父を見つけると駆け寄って思い切り抱きついた。
「ラミア、お誕生日おめでとう。綺麗だよ」
「ありがとうお父様」
ラクシミリアの姿を見て父の顔はこれでもかと言うほど緩む。やっとの事で生まれてくれた娘にデレデレな父親の顔を見ながら、母はクスリと笑った。軍の司令官である彼のこんな親ばかな顔を見たら部下達はさぞかし驚くであろうと。
そしてパーティーは盛大に始まった。屋敷ほどもある大きな家のホールに設置された数多くのまるテーブル。白いテーブルクロスの上に並べられた豪勢な料理。たくさんの人がお祝いにやってきて、ラクシミリアにお祝いの言葉とプレゼントを渡した。
ラクシミリアはお祝いを言ってくれる人に心からの笑顔でお礼を言う。しかし、少しでも好きが出来れば彼女はある人物の姿を探した。
その人物は入り口近くの壁際でずっとラクシミリアを見ていた。ラクシミリアも姿を見つけ、お互いに目が合うと微笑み合う。やっとほとんどの人と会話を終え時間が出来たところで、彼は彼女の方に歩み寄ってきた。
「ラミア、再度になるけど、誕生日おめでとう」
「ありがとうゼリル…」
ゼリルはラクシミリアの側に来るとお祝いの言葉を言う。ラクシミリアは嬉しそうに頬に赤みを帯びながらお礼を言った。
「ちゃんと…」
「え?」
「ちゃんと付けてくれたんだな」
そう言いながらゼリルはラクシミリアの髪に付くコサージュに優しく触れる。ラクシミリアは可愛らしく笑みを浮かべると、コサージュに触れるゼリルの手に自分の手を重ねた。
「もちろんよ。今日だけじゃない。これからもずっと付けていくわ」
そのラクシミリアの言葉にゼリルは嬉しそうに笑う。こんな笑顔は子供っぽくて、可愛くてたまらなかった。
「なぁ…ラミア」
「ん?」
そんな笑顔が一瞬急に引きつり、照れたように頬を染めながらゼリルは顔を真顔に戻していく。ラクシミリアはそんな様子を不思議に思い、首を傾げた。
「えっと…大事な話があるんだ……パーティー終わったらさ、少し時間くれねーか?」
話しながら林檎みたいに顔を真っ赤にしていくゼリル。ラクシミリアはその表情に何かを悟ったのか、それともただ流されたのか、一緒になって顔を真っ赤にし、小さく頷いた。
「良かった…」
ゼリルはその動作にほっと安堵のため息を零す。
その時だ。
運命の刻が来たのだ。

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あきゅろす。
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