愛する人に囲まれて
――お誕生日おめでとう
その言葉をもらってから2人は丘の上で眠った。
その日は人生最高の誕生日で、人生最高の贈り物のような気がした。
朝日が昇る前にラクシミリアは起こされるとゼリルに背負われて来た道を帰っていく。ラクシミリアは眠気に負けて途中でゼリルの背に全てを預けて眠ってしまったが、ゼリルはそんなラクシミリアを起こさないようにゆっくり、長い道のりを帰って行った。
次第に闇の中で輝いていた星々はさらに輝く物の登場で力を失っていく。
「ん…」
その光に、夢の世界にいたラクシミリアは眉を潜め、長い睫毛の付いた瞼をうっすらと開けた。
「おはようラミア。ほら、空が白んできたぞ」
ラクシミリアが意識を戻したことにいち早く気づくと、ゼリルは優しい声色でラクシミリアに語りかける。
「朝日が昇る。今日は……きっと素敵な日になるぜ」
ゼリルはそう言いながら次第に昇る朝日を見つめる。それはまるで希望のようで、全てを照らす光にラクシミリアも目を向けた。
「うん。今日は、絶対素敵な日になるわ」
次第に強さを増す光に目を細めながら満面の笑みで答える。だって、すでに大切な人がここにいる。それだけで、神様に何度お礼を言っても足りないほど自分は幸せなのだ。一緒に朝日を見れるなんて夢みたいだ。
今日は素敵な日になる――
それはラクシミリアの中ではすでに確定的な事実だった。
だって…既にこんなに素敵だから。
もしこの光で自分の体が溶けてしまったって、彼女は幸せでいれる自信があった。
完全に地平線から太陽が顔を覗かせた頃、2人はラクシミリアの家に着いた。
「今日はありがとうゼリル。本当に素敵だった」
「今日はなんてまだはえーよ。これからバースデイパーティーがあるだろ?」
ラクシミリアは毎年豪勢な誕生会を開く。豪華な食事を用意して、家を綺麗に装飾して、親戚やたくさんの友だちを招いて盛大に祝うのだ。この日は、普段軍の仕事で忙しい父も仕事を休み、1日中ラクシミリアの側で誕生日を祝ってくれる。
「そこでもちゃんとお祝いするよ。あ、そだ…」
ゼリルは思い出したようにラクシミリアの髪に手を伸ばす。触れたのは、先程プレゼントした真っ赤なバラのコサージュ。
「これ、付けて出席しろよな」
「うん!」
ちょっと照れたような笑いを浮かべるゼリルにラクシミリアは大きく頷く。言われなくともそのつもりだ。すでに、このコサージュはラクシミリアの宝物になっていたのだから。
「じゃ、また後でな」
「えぇ。待ってるわ」
ゼリルは別れを告げると家の方に向かって駆けだしていく。少し行ってからまた振り返り大きく手を振ると、彼は向き直り走り去ってしまった。
その姿が見えなくなるまでラクシミリアは顔から笑みを絶やさずに手を振って見送る。彼の姿が見えなくなると、ゆっくりと手を下ろし、名残惜しそうに彼が去った方向を見つめていた。またすぐ会えるのに、その時間がとても長く感じる。
ラクシミリアは諦めたようにため息をついてから家の門をくぐった。
「お帰りなさいラミア」
「ただいま、お母様」
家にはいると、待ちかねていましたとばかりに母親がギュッと抱きしめてくる。ラクシミリアは母の体に腕を回し抱きしめ返しながら返事をした。
「お母様、外出の許可をくださってありがとうございました。私…本当に嬉しかった」
ラクシミリアはそう言うと、自然に瞳から涙が流れ落ちる。始めて知った。幸せすぎると人は涙を流すのだ。喜びで心が満たされて、それが心だけでは納めきれなくなって、人は綺麗な涙を流すのだ。
「お誕生日ですもの。それにね」
母はそんなラクシミリアの柔らかい髪を撫でながら優しい瞳で見つめる。
「ゼリル君なら、私はなんの心配もしてないもの」
そう言ってにっこり笑う。ラクシミリアもそんな母を見て、頬を伝う涙を拭った。
「ありがとう…お母様」
母に抱きつく力を強めれば、母も答えるように強く抱きしめ返してくれる。
――あぁ…私は幸せ者
ラクシミリアはその温もりに目を閉じた。ゼリルだけではない。ここにも、自分を愛してくれる人がいる。それは本当に奇跡みたいで、それが本当に嬉しかった。
「お母様…私…幸せ」
「そう…良かったわ…本当に……。さ、パーティーの支度をしなくっちゃね。ラミア、あなたはもう少し寝てなさい。時間が来たら起こしてあげるわ。あ、それと、外出のことはお父様に言っては駄目よ?お父様はラミアが大好きだからゼリル君に嫉妬しちゃうわ」
「ふふ、わかった。じゃぁおやすみなさい」
ラクシミリアは母から離れると階段を上り、2階の自室へと向かう。部屋に入り、服を脱いで寝間着に着替える。彼からもらったコサージュを大事そうに鏡台に置くと、彼女の柔らかいベッドの中へと身を投じた。
柔らかい布団が心地よく、彼女はすぐ夢の中へと誘われる。そのまま目を閉じ、彼女は美しい夢を見た。花が舞う美しい世界で、愛する物に囲まれた自分。
それはとても綺麗な世界。

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