赤い花と満天の星
バラ園を散歩しながらゼリルは綺麗な笑みを浮かべてラクシミリアを見る。
「お前のお母さんに了解を得たから今日は1日中一緒にいれるぜ」
その言葉を聞いて、ラクシミリアは目を丸くし、言葉の意味を理解しようと頭をフル回転させた。
「それって…」
だってそのような事は今まで一度だってなかった。1日中ゼリルと一緒に居るなんて信じられない。でもそれが本当だとしたら
「嫌か?」
少し眉を下げて心配そうな顔をするゼリル。ラクシミリアはプルプルと顔を左右に振ると、顔を赤らめた。
「そんなことない…。嬉しい…!!」
ラクシミリアは満面の笑みを浮かべる。その笑みに、ゼリルは安堵をし息を零した。
「よかった。じゃ、連れていきたいところがあるんだ。付いて来てくれるか?」
ゼリルの言葉にコクリと頷く。するとゼリルはラクシミリアの手を引き、バラ園の外へと向かった。
「どこへ向かうの?」
「ちょっと遠く。だから疲れたら言えよ?休んでもいいし、なんなら俺が背負ったっていい」
「それはいや。恥ずかしいもの」
そう言いながらラクシミリアは大人しくゼリルに着いていく。ゼリルと外出など初めてだし、箱入り娘の彼女は家族以外の人と遠出をする事すら初めてだった。だから母が2人きりでの外出を認めたことに驚いたが、同時に心が躍った。
「楽しみ」
ラクシミリアはにっこりと微笑む。ゼリルは「期待してろ」と言いながらにっこりと笑った。相変わらず綺麗な笑顔。
そのあと、2人で他愛のない会話をしながらラクシミリアの知らない目的地を目指した。
出発したのは昼を少し過ぎたくらいだったのに、日はもう赤い色を映し出している。
「ヤベェ…時間がきちまったな…。ラミア、乗れ」
ゼリルは言うなりしゃがんでラクシミリアに背に乗れと合図をする。ラクシミリアはその提案に目を丸くした。
「え?そんな…」
それはなんだか恥ずかしい。だから、自分が疲れたときは休むことを要求し、背負われる事を拒み続けてきたのだ。
「今更恥ずかしがるなよ!時間がないんだ、乗れ!!」
ゼリルの気迫に押されてラクシミリアはぐっと台詞を飲み込み、背中に恐る恐る手をを延ばす。背中に体を預ければ、浮遊感に襲われ、それと同時に足が地面を離れた。
「走るから少し振動があるけど我慢してくれな」
「うん」
ゼリルの広い背中に体温を感じる。温かい温もりに、ラクシミリアは恥ずかしさを忘れ、肩に頭を預けた。
ゼリルはその間も軽快な足音を立てて走り続ける。どうして自分を担ぎながらもこんなに早く走れるのかと不思議に思った。
暫くすると急に体勢が変わり、ラクシミリアは驚いて顔をあげる。気付けばゼリルは岡を駆け上がっていた。空がどんどん近づいてくる。赤い空が段々夜の闇に吸い込まれて、そこで星々が失った輝きを取り戻していく。
「綺麗…」
思わずラクシミリアは歓声を漏らした。その声を聞いて、ゼリルは満足そうに微笑む。
「さてと、ついたぞ」
岡の頂上に着くと、ゼリルはラクシミリアを背から降ろした。ラクシミリアは地上に足を付けるとまたすぐ空を見上げる。
「凄い!お家から見るより一杯星が見える!!」
「そりゃそうだ。ここは町より光が無いからな」
ラクシミリアの反応に頷きながらゼリルは言うと、ドサリと草の上に腰を下ろした。
「座れよ。満天の夜空を見せてやる」
ゼリルはラクシミリアの手を引き、ラクシミリアは促されるままにその場に座り込む。空を見つめ続ければ、次第に赤が消え、黒が世界を支配していく。その黒の支配から逃れるように星の瞬きが輝いていた。空を覆う星にラクシミリアは歓声をあげ続ける。本当に美しい空だった。
そうしているうちに時間はいつの間にかたっていた。
「ラミア」
「ん?」
急に名を呼ばれ、ラクシミリアはゼリルの方を向く。すると、急に薄茶色の髪に優しく手が触れた。手以外の何かと一緒に。
「やっぱり、ラミアはホントに花が似合うな」
手と共に髪に触れたのは真っ赤な薔薇のコサージュ。ラクシミリアは驚いたように目を見開いた。
「誕生日おめでとうラミア。誰よりも先に言えて良かった」
優しい笑みがゼリルの顔を埋めつくす。ラクシミリアはそのコサージュに触れると、嬉しそうに笑った。
「ありがとうゼリル…」
彼女は幸せだった。幸せ過ぎて涙が零れた。
「ありがとう…」
そして願うのだ
神様…どうか…この幸せが永遠に続きますように…
満天の夜空が2人を見守る。静かな夜に一杯の幸せを感じながら

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あきゅろす。
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