それは幸せ
これは何百年も前の話。
ある日、陸軍総司令官の夫婦の間に1人の少女が生を授かった。
結婚10年目、妊娠するも流産を繰り返していた妻がついに切望していた子供を生み、家族はその誕生に泣いて喜んだという。
その少女は"ラクシミリア"と名付けられ、やっと生まれ落ちた愛しの我が子に両親は多大な愛情を注いだ。彼女の家族はそれはそれは幸せな日々を過ごしていた。
「ラミア!!」
それから13年の月日が流れた。庭のバラ園でバラを愛でていたラクシミリアは名を呼ばれ、声がした方へと振り返る。薄い茶色をした巻き毛のロングヘアーが振り向くと同時に風に揺れた。
「あら、ゼリル。こんにちわ」
ラクシミリアは声の主の姿を確かめると可愛い顔に満面の笑みを浮かべて美しく笑う。その瞳に美しいバラに囲まれた美しい少年の顔を映して。
「ラミア。良かった…ここにいたんだな。家に行ってもラミアがいないから探し回ったんだぜ?」
ラクシミリアにゼリルと呼ばれた少年は微笑みながらラクシミリアに駆け寄った。バラのように赤い髪と新緑のように淡い緑の双眸が見事にバラの中にとけ込み、美しい容姿をした少年が一層生えて見える。まるでバラの精みたい。ラクシミリアは絵のように美しいその光景に思わず目を細めた。
「ま、そんなに大事な用事があったの?髪が崩れてるわ」
相当急いできたのか、息づかいは荒く、髪が振り乱れている。ラクシミリアは白く細い指でその汗で少し湿った髪の一束をつまみ、定位置に戻してあげた。ゼリルは少し恥ずかしそうに笑ってからラクシミリアをまっすぐ見つめる。
「ラミア、明日はお前の誕生日だろ?」
「えぇ、もしかして一足先に祝ってくれるのかしら?」
そのゼリルの言葉にラクシミリアは頬をほのかに赤らめながら微笑んだ。その笑みにつられゼリルもさらに美しい笑みを浮かべる。
ゼリルはラクシミリアの家と家族ぐるみの付き合いをする幼馴染みだ。
ラクシミリアより2つ年上の彼はよくラクシミリアの所へと現れ、たわいのない話をして帰って行く。だがラクシミリアはそれが嫌いではなかった。寧ろ彼が来てくれるのが嬉しく、彼が来た日はどんな嫌なことがあったって明るく乗り切れるほどだった。
それはもはや幼馴染みや友だちの関係を越えた感情。その感情をゼリルもラクシミリアに対して抱いていることは言われなくても感じていたし、ゼリルもラクシミリアの心境を理解しているだろう。
「お前に1番にお祝いを言うのは俺だからな。2日間を掛けてお祝いしてやるよ」
端正な容姿の割に口が汚いゼリル。だがそのギャップがまた彼に味を出し、一層彼を好きにさせる。ラクシミリアはその嬉しい言葉に心が躍った。彼がいてくれるだけで彼女にはとても嬉しかったのだ。
自分が愛する人がいる。自分を愛してくれる人がいる。
それはとても幸せで、ラクシミリアはそれは美しく微笑むのだった。

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