のしかかる絶望感
夢を持てた世界が消え失せ、暗澹たる世界が幕を開けたのはもう何百年も前の話になる。
あの日以来、光などとうに見失ってしまったんだ。


『私を殺しやすくするためだ』
その驚異の台詞にシルハとマーダは目を丸くする。
「こ…殺しやすくする…ため??」
シルハは放出していた魔力を抑えて彼女に尋ねる。ラクシミリアは嘲笑を浮かべ、乾いた声を上げて笑い出した。それは美し容姿からは想像も出来ないような枯れ木のような声。シルハはその声に身が震えた。理由はおそらくその声があまりにも枯れ、憎悪とも悲嘆ともとれるほど色々な感情を含んでいたからだ。それは今のシルハには恐怖心を植え付けるには充分だった。
「そうさ、殺しやすくするためだ。この世界など…」
ラクシミリアは笑いを止めると、まだ少しかすれた声で言葉を紡ぐ。
「私にとっては無価値に等しいのだから」
乾いた声。しかし表情は先程の嘲笑を消し去り表情を消した。まるで人形のように感情を一切感じさせないガラスのような瞳。
ただ物を映す道具と化した瞳を見た時シルハは悟った。
さっきの声。
あれは憎悪でも悲嘆でもない。
あれはそう、絶望。
この世の全てを見限った、絶望感だった。
その感情があまりにもストレートに出た笑い声。まるで世間から見放された老婆のような、この世などどうでも良いという絶望感だったのだ。
あまりに暗い闇を纏った絶望にシルハの身は震えたのだった。まだ希望を持つ彼に、その暗い絶望はあまりにも重すぎたのである。
「なんで死にたいんですか…?」
そのシルハの台詞にラクシミリアがピクリと反応する。
シルハはその絶望に立ち向かいながら尋ねた。腕が震えているのを必死に押さえ込む。それは、心を読めるラクシミリアには無駄な抵抗かもしれないが、それでもシルハはきちんと尋ねたかったのだ。
「なぜそんなに未来に希望を紡がないのですか?」
いくら時の刻みが止まったといえど、もしかしたらその運命を逃れる道筋があるかもしれない。それに、時の経過など関係なく、日々を生きていけば楽しいことだってたくさんあるはずだ。なぜそこまで世界に絶望しきれるのか、シルハには理解しかねた。
「希望を紡げだと?くっハハハハハハハ」
シルハの言葉に驚いたように目を見開くと、続いてはじけるように笑い出す。シルハは驚き思わず身構え、マーダはその様に恐怖し、シルハにギュッとしがみついた。
「貴様に何がわかる!!私の歩んできた年月などを知らぬ物が偉そうに戯れ言を並べるな!!」
笑いを止めると彼女はカッと目を見開きシルハを睨み付ける。シルハは余りの勢いに思わず後ずさりをした。
「私がこの歳月、何もしなかったとでも思っているのか?ただ悲観に涙する日々を送っていただけだと思うのか…!?この呪から逃れる術を私は必死に探した!だが無かったのだ!!」
ラクシミリアは髪を振り乱しながらシルハに怒鳴りつける。最後の方になると声が少しずつ枯れてくる。でもそれは先程の絶望感から来た感情の乾ききった声とは違い、どこか切なさを含んでいた。シルハはその声にグッと心臓を掴まれたような気分になる。ラクシミリアは本当に必死にこの残酷な運命から逃れる術を探したのだろう。しかし見つからない。それが彼女の希望をつみ取り、全ての世の中に絶望したのだ。
「私の…私の未来は…あの日に消え失せたのだ…」
夢を持てた世界が消え失せ、暗澹たる世界が幕を開けたのはもう何百年も前の話になる。
あの日以来、光などとうに見失ってしまったんだ。

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