不機嫌面と赤面
「ちっ」
赤い世界の中で、ラグスは苛々に任せて舌打ちをした。
明るい茶髪の髪はツンツンと少し立っており、ラグスが持つ深緑の眼は何処までも深く、底を見ることが出来ない。だが、瞳には強く燃えるような意志が見て取れた。明らかに不機嫌な顔をしているが、ラグスを知っている人なら機嫌が良い時などあるのか?というほど彼は殆ど眉間のシワを消さないからこれは不思議なことではない。
ラグスは持っていた剣の切っ先についた血糊を薙ぎ払うようにして振り落とす。何度も何度も斬ってもワラワラと溢れ出してくる敵の数の多さに、元々気が長くはないラグスの不快指数は絶頂に達していた。
それなのに敵を斬れば斬るほど剣に脂がのってうまく斬れなくなっていく。それがもどかしさを募り、さらにラグスの不快指数を煽っていた。
「…うぜぇ」
ラグスはおもくそ低い声で呟くと次なる敵を求めて歩き進める。
「死ね!お国の犬め!!」
数歩歩けばすぐに敵とぶち当たる。ラグスは迷わず剣を振り、敵の腹を切り裂いた。
だが脂がのっているせいか、切れ味が本当に良くない。スパンと豪快に横に振り切れるはずだった剣は腹の中でスピードを止め、腹に食い込んだ状態になる。腹をかっさばかれた敵は絶命こそしたものの、前倒れになった敵の体が剣に変な風に食い込み、剣が容易に引き抜けなくなってしまった。
「…っ!糞ったれ!」
ラグスは敵の体を足で押さえ付けて剣を力任せに引き抜く。
その時だ。
背後に殺気を感じた。
だが力任せに引き抜いたせいか、腕を振り上げることを止めることが出来ず、防御体制に入れない。また、呪文を念唱していたのではこの近距離では先に敵の刃が自分の体にめり込むのは必然的だった。
「くそっ!」
注意を怠った。
剣を引き抜くことに意識を集中させすぎて敵の存在に気付かなかったのは明らか不覚。ラグスはどうすることも出来ずにせまりくる小型ナイフの切っ先が自分に向かってくるのをまるでスローモーション映像でも見ているような気分で見ていた。
一瞬風がいやに強くなった気がする。
そして赤が散った。
焼けるような痛みが来るだろうと予測していた首には痛みはなく、何が起きたかわからずに呆然と立ち尽くす。
視界に入ったのは細い絹糸のような黒い髪。
自分を殺そうとした男が片口から赤を吹き出している様。
赤い雫が舞う世界に美しく生える白い肌。
クルリと可憐に宙を舞ってから、黒と白を持つ人物はラグスの前に着地を決めた。
「大丈夫だった!?」
「て、テメーは!!」
ラグスの前に降り立ったのは長い黒髪を高い位置で二つに縛ったツインテールの少女、フロウィだった。
ラグスの顔に一気に熱が上がり、それに気付いたラグスはとっさに顔を背けた。こんな顔、ラグスを知っている人が見たらかなり驚くであろう。それくらい彼の顔は真っ赤になっていた。
「あ、テメーなんて酷くないかな?一応キミの先輩だよ?私」
フロウィは腰に手を当てて前屈みになりながらラグスを少し怒ったように見る。ラグスはそんなフロウィにチラリと目を向けたと思うと、またバッと顔を背けた。
「?私なんかしたかな?取りあえず怪我はない?」
フロウィはラグスの態度に戸惑いながらも、ラグスの心配をする。
「平気だ」
ラグスは顔が真っ赤なことを悟られないように相変わらず顔を背けたままぶっきらぼうに返事をした。
「そう、ならよかった」
ラグスのその言葉にフロウィは満面の笑みで答え、ラグスは少しその顔が視界にはいったのかまた顔に熱が上がる。そんな自分に対して舌打ちを一つついた。
「!オイ!!……武器は?」
ラグスはその時あることに気付いて思わずフロウィの方を見て尋ね、気付いてすぐ顔を背け小さい声で質問をした。
敵は鋭利な丈のある刃物で斬られたような切り口をしている。だがフロウィはそれらしい武器を持たず、丸腰同然の恰好をしていたのだ。服の中にも隠してるとは思えないその様子にラグスは首を傾げる代わりに舌打ちをする。そんなラグスの心境など知らず、やっとこっちを向いてくれたとフロウィは嬉しくなりながら質問に答えた。
「あ、私武器は使わないんだ」
フロウィがそう明るく言うと同時にフロウィの背後に剣を振り降ろそうとする人影が現れる。ラグスはその事に気付くととっさに剣を構えたが間に合いそうになかった。
…糞っ!!
振り下ろされる剣にフロウィは目を向ける。
その瞬間あっという間に事は流れた。

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あきゅろす。
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