同一人物
腐死人が体から引き抜いた刀を振りかざし、ゆっくりとした足どりでシルハに近づいてくる。シルハは剣を構えると、腐死人に向かって突っ込んだ。
「ア゙ア゙アヴア゙ア゙―」
突っ込むシルハに腐死人は刀を振り下ろす。シルハは横にジャンプして刀を躱すと、振り下ろされた刀は虚しく地に落ちた。
グチュグチャ――
「うわっ…」
刀が突き刺さると、途端に嫌な音を立てて地面が腐敗する。シルハはその事態に顔を歪めた。振り下ろされた地と腐死人の体から放たれる臭いが鼻をつく。酷い臭いに頭がクラクラしてきた。
「くそっ…!!」
シルハはなるべく息をしないように注意をしながら腐死人の脇腹に剣を振りかざす。剣が体にめり込めば、グリャリと嫌な手応えが剣を通して伝わって来てシルハは更に顔を歪めた。
振り切れば剣の刃から腐った体が飛び散る。切り口からはまた酷い臭いがして気絶するかと思った。
「アヴアア゙ア゙ア゙」
「え!?」
その時シルハは我が目を疑った。腐敗した体はグチャグチャと嫌な音を立てながら切断部分が接合していく。直ぐに完璧にくっつくと、シルハに向かって腐った刀を振り下ろす。シルハは斬撃を受け止めようと剣を構えると、ある事に気付いて唖然とした。
「シル兄!!」
少し固まっているとマーダが後ろから鋭利な爪を携えた赤黒い腕を振り下ろそうとマーダがシルハに避けろと合図をする。
「!マーダ!駄目!!」
シルハはマーダの存在に気付くとマーダの体を抱き抱えるようにして、腐死人から遠ざかった。
「? シル兄」
シルハの突然の行動に、マーダは首を傾げる。シルハはマーダに目で自分の剣を見るように合図をし、マーダはシルハの剣へ目をやった。
マーダはその剣を見てゾッとした表情をする。シルハは小さく頷くと、剣を放り投げた。
カランと音を立てて剣が地に転がる。腐死人を切った場所が腐った剣が地に触れると、また地面がグチュグチュと音を立てて腐敗した。
「気をつけてマーダ。アイツの体…触った対象物を腐らせるみたいだよ」
シルハはそう言いながら腰のベルトに繋がった鞘を外し放り投げる。少しだけ身軽になってからシルハは魔力を練り出した。
「魔法でやるしかないみたい」
「うん、わかった」
マーダは頷くと腐死人へ目をやる。それから一気に魔力を放出しだした。
放出した魔力が空気をビリビリと揺らす。かなり魔力の濃度が濃くなると、マーダはそれを腐死人に向かって放った。
魔力が風の様に腐死人に襲い掛かれば、腐死人の腐って接合が弱い体はいとも簡単に吹き飛ぶ。
「ふふ…無駄だ。そんな攻撃では私の呪は破れんよ」
ラクシミリアがそう言うと吹き飛んだ体はまた1つに纏まり元の形状に戻った。シルハはその様子を見て顔をしかめる。マーダは酷く顔を歪めて不服そうな態度をとった。
「ラクシミリア…アナタはイーディテルアをご存知ですか…?」
ラクシミリアが口を開いたのを見計らい、シルハは質問をした。それはずっと気になっていた事。イーディテルアの口から出た"呪術師"の名は確か"ラクシミリア"だったはずだ。だが、同一人物であるはずはない。だってイーディテルアが呪を喰らったのは100年も前の話しなのだから。
「イーディテルア…イーディアの事か。良く知っているさ。私が魔女にしたのだからな」
だが、意外な回答にシルハは目を丸くする。
「嘘だ…だって…イーディテルアは…」
「100年前の人間。確かにそうだ。だが私はイーディアなどよりも長く時を歩いているのだよ、シルハ」
ラクシミリアはシルハの心境を悟ったように不敵な笑みを浮かべながら語りかける。シルハはわけのわからない言葉に頭が混乱した。
「教えてやろうか?呪術師の歩みを」
ラクシミリアはフランス人形の様な美しくかわいらしい顔を少し横に傾けて尋ねてくる。シルハが小さく頷くとラクシミリアは口を開いた。

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