腐れ人形
殺し合え
少女がそう言うと、また空気が重くなる。シルハとマーダはとっさに身構えた。
「私に挑んでくるウツケ者共。せめて名くらいは聞こう」
「シルハ・クリシーズです」
少女がそう尋ねてきたので、シルハは少女から視線を反らさず、淡々と答えた。今は落ち着きを取り戻したのか、冷静な瞳をしている。
「僕はマーダ」
まだ少し震えているが、マーダもしっかりとした口調で答えた。
「シルハにマーダか。覚えておこう。私の名は」
その途端、少女の足元からドス黒い光の帯のようなものが数本、地から弾けるように飛び出す。下から強風が舞い起こり、シルハとマーダは強風で飛ばされないように足を踏ん張った。
「ラクシミリアだ」
「え…?」
風に乗って微かに聞こえた名に、シルハは目を見開く。
「"呪"…《全界朽華》」
呪文が聞こえた瞬間に、シルハとマーダはその場から逃げる。風に煽られてバランスを崩してしまい、シルハは少しよろけたが、その直ぐ後ろを何かがかすめた気がして、勢い良く振り返った。
シルハの数本前は地、草木が腐り果て、また嫌な臭いが鼻につく。シルハは少し顔を歪ませてからラクシミリアを見た。
「ふふ…《腐死人斬(ふしびとざん)》…降臨」
キキッ―キーキキッ――
続くラクシミリアの呪文で、腐敗した地から妙な音が響く。硝子をひっかいたような甲高い背筋がゾクッとする音に、シルハとマーダは思わず耳を塞いだ。
すると、腐敗した地がドロリと溶け出す。ドロドロとした地面は、それからゆっくり重力に逆らって、噴水のように盛り上がっていった。そのドロドロの盛り上がりは、次第に人の形の様に頭、胴体、手、足が出来上がる。最後に、眼球がゴロリと体内から現れると、顔の切目、恐らく口だと思われる場所をガァっと開いた。
「ア゙…アア゙ア゙…ヴア゙――」
喉から絞り出したようなかすれた、息苦しい声。声と共に腐った臭いがして、シルハは吐きたい衝動にかられ、口元を手で押さえた。
「ひ…」
マーダはその出てきたモノに恐怖に似た悲鳴を小さくあげる。腐った土や草木から出来た泥人形の様な物体は形が上手く維持出来ないのか、ボドボドと体の一部が矧がれおち、地に溢れる。それがまた足に吸い付くように吸い込まれていき、体の一部になっていった。
「気色悪…」
酷い臭いを放つソレに、シルハはムカムカしてきた胸を押さえ、少しでも新鮮な空気を吸おうと努力した。
すると、ソノ物体はいきなり自分の腹だと思われる場所に自分の手を突っ込む。グチャグチャと中をあされば、また体から矧がれ落ちた腐った泥が音を立てて落ち、酷い臭いを放った。
グチャグチャとあさっていると、何かを見付けたのかピタリと手が止まる。そのまま一気に体から手を引き抜くと、長い物を引き出した。
「刀…?」
それは確に刀の様な形をしている。だが、腐っているのか刃はボロボロ、色は茶色くくすんでおり、とても使える代物には見えなかった。
「切り刻め、"腐死人"」
ラクシミリアは美しく笑うと、腐死人は手にした刀を構えた。

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あきゅろす。
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