遠くと近くの声
シルハが後ろでマーダを抱えながら必死に走っているころ、ヨフテは近付けば近付くほど違和感が増す少女の元へ走っていた。
「なんか変す…」
戦場の中を風にゆれてゆったり歩く足取り、空を見つめながらボーッとしたさま。近付くとわかったが、少女はかなり美人だ。13、4ほどの美少女がそうしている様は何とも絵になるが、この戦場では不自然極まり無かった。
「…あ…」
走りながらヨフテはあることに気付いて足を一瞬止める。少女の背後には森があり、ヨフテは近付くことを躊躇した。森には敵の本拠地が有り、数多の罠が仕掛けられているらしいと、任務前にタピスが言っていたことを思い出したからだ。
「…っ!」
しかし更にヨフテは足を進めた。なぜだかわからないが、自然に足がその方へと進んでしまったのだ。まるで吸い寄せられるかの様に。
「キミ…こんなところで何してるんスか…?」
ヨフテはついに少女の元に駆け寄ると、少し躊躇いがちに声を掛ける。少女がヨフテに顔を向けると、風になびいて髪が揺れた。
綺麗――
ヨフテは一瞬思わずみとれてしまう。それほどその少女は美しく、また、とても寂しげで、儚げだった。
「こ…こんなところに居たら危ないッスよ…?」
やはり戦った様にはまったく見えない。戦うにはあまりにも不向きな動き辛そうな服装。全く乱れていない外観。異様に落ち着いているが、テロリストにはとても見えなかった。
「危ないッスよ」
もう一度言ってから手を伸ばす。その途端に少女の目付きが変わった。
「私に触るな」
少女は、ピシャリと言い放って身を引く。
「あ、危な…」
少女のすぐ後ろが森だったため、ヨフテは慌てて更に手を伸ばした。森には沢山の罠がある。むやみに森に近付いてしまっては危険だ。
「駄目!!ヨフテ――――――――!!!!」
「え?」
その時、後ろから自分を呼ぶ声にヨフテは一瞬後ろを振り返った。
「《生死混同》」
その時、後ろから少女の声がする。不思議な呪文念唱だろうか。ヨフテは驚いて向き直ると前方に強い衝撃を感じた。
体が意図せず宙を舞う。全身に痛みが突抜け、悲鳴をあげることすら出来なかった。
地にドサリと体が落ちれば、また背中に鈍い痛みが走る。だが、それ以上に全身を占めあげるような苦痛を感じていた。
金縛りにあったみたいに体が動かない。肺も呼吸機能を失ったかのように上手く起動せず、酸素を体内に取り込むことが出来なくなったていた。遠くから自分の名を叫ぶ声が聞こえた気がする。だが、反応することも出来ず、ヨフテは目だけを動かした。
視界に入ったのは自分の名を叫んだと思われる人物ではなく、いつの間にか自分の側に居た、あの美しい少女だった。
「私に触れるな…貴様ら等に私は殺せないのだから」
その少女の言葉を最後に、ヨフテは酸欠に襲われながら意識を手放した。

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あきゅろす。
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