別世界の少女
走り抜けながら、たまたま打ち当たった敵と戦り合い、切り裂いて行った。
隊証のお陰で、知らない見方とは戦リ合う心配はない。隊証などを付けていないテロリストだけを、ごちゃごちゃした平野で地面に倒していった。
「…あれ…?」
「? どうしたの?マーダ」
敵が地面に吸い込まれるように倒れる中、マーダが素頓狂(すっとんきょう)な声を出す。シルハは疑問に思って、マーダと視線を合わせるように屈みながら尋ねた。
「あの人…」
マーダはそう言うとゆっくり腕を上げてある一点を指差す。シルハはその指差す方へゆっくり視線を動かした。
視界に入ったのは耳元のコサージュ印象的な薄茶色の長い巻毛が風に揺れるさま。フリルの付いたシャツに、紺色のベスト、ふわりと長い白いロングスカートに真っ黒なブーツ。胸には紐状の長いリボンが付いており、やはり髪同様風になびいていた。
明らかに不自然。
そう思ったのはシルハだけでは無いようだ。現に小さい子供のマーダも、いち早くその以上に気付いた。
「綺麗すぎる…」
この赤が飛び交う世界に、一人だけ別世界の様な少女。汚れを知らぬ少女は明らかにこの戦場から浮いていたのだ。
戦場をものともせずに自分のペースでシルハ達から少しだけ離れた場所をゆっくり歩く。戦う様には見えないし、かといって戦場にたまたま巻き込まれたとしても、この惨劇に動じなさずきだった。
「誰ッスかね…?」
「あ、ヨフテ…」
異質な少女を見ていると、突然後ろにいたヨフテ横から顔を出す。やはりおかしいと思ったのか、いぶかしげな表情をしていた。
「……怖い…」
2人でその少女を観察していると、マーダが真っ青な顔をして震え出した。
「マーダ…?」
シルハはこんなマーダの様子を知ってる。以前、イーディテルアの森でも、同じような様子を見せていた。
「あの子…」
マーダはそう言うのをどうやら敏感に感じられるらしい。あの少女は…どうやら普通では無いようだ。
「何か変すね…行ってみるッス」
「あ、待って…!」
そんな事を知らないヨフテは少女に向かって走り出す。シルハは慌てて制止をさせようとしたが、伸ばした手は虚しく空を切り、ヨフテは走って行った。
「駄目…!ヨフテ!!」
シルハは慌てて追い掛けようとしたが、ガタガタと震えたマーダがシルハの服の裾を引っ張って制止させる。シルハは驚いて振り返った。
「マーダ?!」
「シル兄…やだ…行っちゃ…やだ…」
マーダの震えようが尋常じゃない。顔面蒼白で、目は充血して見開いている。マーダの異常な怖がりように、シルハは背筋が寒くなる思いがした。
「…駄目…」
シルハはゆっくりと振り返りながら少年の姿を捕えた。
スローモーションの様に世界が進む。少女に走りよる少年が、妙にゆっくり動いている様に見えた。
シルハの額から流れた汗が、頬を伝って放れる。その感覚が無駄に冴えきっていて、水滴が放れた感覚が、シルハの脳を活性化させた。
「駄目だ!!ヨフテ!!」
嫌がるマーダを無理矢理抱き抱えて、シルハはヨフテを追って走り出す。必死に追い掛けるが、時間が開いたためか、ヨフテに追い付く事が出来ない。名を叫ぶが、この戦慄の中で全てかき消されてしまった。
「お願い…追い付いて…!」
シルハはすがるような思いで戦場を駆け抜けた。

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あきゅろす。
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