確信に近い勘
空気がズンと重くなる方へ、ヴィクナは進んで足を進めた。箒に跨り空を飛べば、猛スピードでその場へと着く。
しかし、その場に近付こうにも、上からの圧力が強すぎて、万物が近付く事を拒むかの様に、その圧力の元では誰も動くことが出来ずに潰れてしまっていた。
「ザルディ!!!」
ヴィクナは押し潰されそうな圧力に必死に耐えながら声を張り上げて叫ぶ。空気圧で、ヴィクナが跨る箒がミシリと音を立て、木片が少量、重力に従って落下した。
圧力の中心に居る人物、ザルディの名を叫ぶも、抵抗が強すぎるのか、空気の振動はかきけされ、ザルディには届かない。この圧力の中でも平然と立ち尽くすザルディは、辺りの人間が踏みつけられた空き缶の様に潰れて行くのを、ただキセルを吹かして見つめていた。
「ザルディ!!!聞けやこのヤロー!!!阿呆!!!グズ!!!間抜け!死ね!!!貴様なんざ今すぐ死ねこの始終変態糞親父―――――――――!!!」
「あ゛ぁ!!!?んだとこの野郎!!!」
人間、悪口と言うものは無駄に良く聞こえるもの。声が届かない筈のザルディは、ヴィクナの暴言に鬼の様な形相をして睨みつけてきた。
「聞こえてんだろが阿呆!!!話あるから発動停止させんしゃい!」
ヴィクナは喉が痛くなるほど声を張り上げる。こちらに集中していた為か、辛うじてヴィクナの言葉を聞き取ったザルディはふぅっと息を吐く。その途端、空気圧は一気に正常に戻り、上からの重力に逆らうために必死で箒を浮かせていたヴィクナは、反動で50m程空へ舞い上がってしまった。
「あんだ〜?何の用でい」
ザルディは空に上がっていったヴィクナを見つめ、何がしたいのかと首を傾げる。
「…ん?」
だがその瞬間、猛スピードで空から何かが此方に突っ込んでくるのが目に入った。
「こんのあ ほ ん だ ら ぁ ―――――――――!!!」
空に舞い上がったヴィクナはそこから急降下してザルディに思いきり蹴りをぶち込む。痛恨の一撃を食らったザルディは悲鳴も上げずに吹っ飛んだ。
「アホ!!!ホント!下手したら大気圏突破するところだったから!!!まぢ娯楽の扉をノック仕掛けたから!!!まぢお前死ね―――!!!つーか殺す!!!」
「ヴィ……ヴィクナ…。やりすぎだぞごら…」
ザルディはとっさに魔力を盾にして決界を張ったためか、辛うじてダメージを半減出来たものの、上空からの急降下攻撃はかなりの衝撃があった御様子。もしヴィクナが魔力を込めて蹴り飛ばしていたら、確実にザルディも神様に御挨拶をするところだったに違いない。そんな危険な事を平気でやっちゃうヴィクナ。何事にも手加減無しな彼女の行動に、ザルディは少し恐怖を覚えた。
痛みで悶えていると、ヴィクナが横に降り立ってくる。圧力で少し折れてしまった箒を残念そうに見つめた。
「ザルディ…どうしてくれんのよコレ…」
「待てよ、死にそうな俺様の心配よりボロ箒の心配かよコラ」
「ボロとはなんだボロとは。お前みたいなボロいおっさんより愛用の"ゲイル"のが大事に決まってんだろコラ」
売り言葉に買い言葉。埒があかないな、と少しだけヴィクナより大人なザルディは溜め息をついた。ちなみに"ゲイル"。ヴィクナさん愛用の箒の名前。
「ねぇザルディ、ここの奴らはタピスに任せてきた。アタシらはラクシミリアを探そう」
「あ?誰だっけ?その何とかミリアって」
ヴィクナの言葉に、ザルディは体を起こし、着物に付いた埃をパンパンと叩きながら尋ねる。昨日の今日の話題だろうとヴィクナは口で言う前に一発箒でザルディを殴り飛ばした。
「ラクシミリア!アンタが言ってた妙な術を使う餓鬼だよ!恐らくだけどな」
「ん?アイツ"ラクシミリア"ってのか…。情報が早いなぁ…」
昨日の話を全く聞いていなかったのか、ザルディは初めて知ったかの様に目を丸くする。そんなザルディにヴィクナは盛大に嫌味っぽく溜め息をついた。
「とりあえず、ソイツが使うのは"呪術"という魔法とは違う術だ!取り合えずソイツはかなり危険が予想されるからアタシとアンタで討伐に向かう。探すよ」
「良くわからねぇよ…。"呪術"って何だ?」
ヴィクナの言葉にザルディは首を捻る。無理もない、"呪術"などと言う単語、ヴィクナだってつい先日までは知らなかったのだ。
「探しながら説明する。時間が無いんだ。多分…隊員達はすぐ殺られる」
確証があるわけでは無い。ただ何故か確信に近い勘がヴィクナには働いていた。アンケル以下の隊員とガチンコとなれば、恐らく負けるのは隊員の方だろう。
「探さなきゃ…」
ヴィクナの緊迫した表情に、ザルディも危機感を持ったのか、真顔で頷く。ヴィクナが箒に跨ると、その後ろにザルディも跨り、二人して空へ舞い上がった。

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