隊長の役目
辺りに鉄臭い臭いが広がる。かぎなれたこの臭いだが、自分はどうも好きになれないとヴィクナ顔を伏せた。足下を見れば、臭いの根元である真っ赤な液体が広がる。靴に付いた血を見ると、最早焦茶だった靴は既に赤茶色に染まっていた。特注で作った靴だから、中に血が染み込んできはしないものも、どうも良い気分がするものではない。
「ヴィクナさん…!」
「? 何?レイア」
ヴィクナがたたずんでいると遠くから、これまた血まみれなレイアが駆け寄ってくる。ヴィクナは首を傾げながら尋ねると、レイアは口を開いた。
「ロットの検分だと、アイルはここには居ないみたいです」
「…そっか」
居たら居たで、ウィクレッタ総出でぶっ潰してやろうと言う話を作戦会議の時にしていたが、どうやらそれは不可能の様だ。
だったら…
ヴィクナは昨夜のザルディの言葉を思い出す。
『アイツ…魔法以外の何かを使ってやがる』
それは恐らく呪術。全てが不明な呪術を使うラクシミリアがもしここに居るとすれば、隊員達は危険だ。
「よっし、そうと決まれば殺りに行くか」
ヴィクナは一人で頷くと箒を跨いだ。
「レイア、ロットに14.5程の薄茶色をした餓鬼がいたら知らせろって伝えて!」
「分かりました」
レイアの返事を聞くと、ヴィクナは地面を蹴る。箒に跨ったまま空を飛ぶと、人探しをするために上空で止まった。
「お?」
すると、ヴィクナの後を追うように誰かが空を飛んでくる。ヴィクナは目を凝らすが、何処にも隊証はついていなかった。
「あら?敵さん?」
「死ね!"碧眼のヴィクナ"!!!」
男はそう言うと剣を突き出す。しかし、ヴィクナに届く前にその刄はポキリと根元から折れた。
「「あ?」」
何が起きたか分からずに二人して声を被らせる。次の瞬間、長い黒髪が視界に飛込んだかと思うと、男は何かの衝撃で地面に叩き付けられて居た。
「あらタピス!探す手間省けたわ」
「何やってんだよ。上空でも襲われること考えとけ」
タピスは宙で一回転をしてからヴィクナの箒の上に降り立つ。箒が少しきしんだが、魔力を帯た箒はあっさりと2人分の体重を支えた。
「悪い悪い。タピス、あたしゃザルディ探してラクシミリアとドンパチするから、アンタはここで隊員達を守って上げて?得意分野でしょ?」
ヴィクナはタピスの方を見ずに地上を見つめながら自分の考えを話す。
「ドンパチ?相手は呪術師なんだろ?テメーら2人だけで大丈夫なのかよ」
タピスは少し怪訝そうな顔をする。相手の技が何一つ分かっていない。それを相手にするのだから全員で掛った方がいい気もした。
「ん〜さあね。だけど全員で行ったとき、アタシらが負けたら大変じゃん。一人はウィクレッタを残しとかな」
ヴィクナはタピスの言葉に反応しながら地上を睨み続ける。
「それに範囲広いしさ。アンタじゃ無いと多分皆を守れない」
ウィクレッタは隊の先頭に立つもの。同時に隊の者を守る役目も持っている。
先頭に立つものは常に下の者にも目を向け、危険な隊員を見付けたら助けに行く。それぐらいの実力の持ち主で無ければ務まらない役職なのだ。行動範囲が狭ければ、ウィクレッタやゲルゼールで何とかカバーでき、この陰のサポートにより、ファンタズマは少ない死傷者で毎回任務を終えることが出来る。
今回は非常に範囲が広いため、自分やザルディ、他のゲルゼールではサポートが追い付かない。だが、タピスは端から端までをほぼ1秒で駆け抜けられる足を持つ。故に7番隊が一番死傷者の数が少ないのだ。
だからヴィクナは残すウィクレッタをタピスに決めた。タピスは少し考えてから小さく頷く。
「じゃ、もしラクシミリアが居たらテメーら二人に任せる。ここは任せろ」
「頼んだよ!タピス☆」
ヴィクナはやっと地上から目を離すとタピスに顔を向け、ニッコリと笑った。
「………ヘマすんなよ」
タピスは小さい声で言うと、箒から飛び降りる。落下途中で空気を足場に方向を変えると、あっと言う間に遠くの方へ駆け抜けて行った。
「…了解」
ヴィクナは笑みを浮かべながら言うと、また視線を地上に戻した。そのとき、急に空気がズンと重くなる。まるで一点に吸い寄せられる様に体が重くなった。
急いで顔を向けると、地面がボコリと凹むのが目に入る。その凹みの中に、人間が居たのか、真っ赤な血が地面を染め出していた。
「あそこか…」
ヴィクナはそう言うと、箒の先端をそこに向け、一気に飛ばしてその場に向かった。

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