ウィクレッタが去った後
シルハ達が戦地で激闘を繰り広げる頃、黒髪をなびかせた青年は高岱から様子を伺っていた。
「タピス…そろそろ…」
「あぁ…」
フロウィの呼び掛けで、タピスは戦地から視線を反らすと、自分の後ろに待機する隊員達へ目をやる。
「行くぞ」
タピスはそう言うと足に魔力を集中させ、一気に空高く飛び上がる。それを合図に7番隊の隊員達は、2番隊隊員同様飛び降りて戦場へと向かった。
タピスは高く舞ったまま足の裏に魔力を集中させる。終結された魔力は空気すらも足場にし、タピスはそのまま宙を蹴った。
空気を足場に発動された"ステップダンス"で超高速で戦場の頭上までほぼ一足で空を駆け抜けると、中心地で軽く一回転をして勢いを殺す。下にいるのが全員敵な事を確認すると、そのまま落下の勢いを借りて頭上から敵を踏みつけた。
いきなりの頭上からの攻撃に、下にいた敵は声を上げることもなく巨大な負荷に体を潰される。回りにいた人間に真っ赤な鮮血が飛び散った。
「テ、テメーは…!!!」
側に居たテロリストの男はタピスの姿を見て顔を真っ青にする。足元が血で染まったタピスは着地の時にしゃがんでいた為にゆらりと立ち上がって、伏せていた顔を少しだけ上げ、上目で男を睨みつけた。
今しがた吹き出した血のような色をした瞳に男は理性を完璧に失う。
「ぅゎぁぁあああああああ!!!!!!」
錯乱しながら男は持っていた斧を横に一線した。タピスはそれをジャンプして躱す。体を捻りながら男の後ろに飛込むとそのまま頭を蹴りつけた。魔力を帯た足は莫大な威力を持ち、蹴りつけられた頭は、まるで爆弾を仕掛けられたかの様に弾け飛ぶ。周りのテロリストはそれを見て恐怖に顔を引きつらせ、悲鳴を上げた。
あまりの無惨な死にように、テロリスト達は我を忘れタピスの周りからクモの子を散らすように逃げ出す。
「全員…逃がすと思うか…?」
タピスは"ステップダンス"で一気に前方の敵に詰め寄る。手に魔力を込め、後ろから一線すれば、男の首が飛ぶ。隣にいた男も、何が起こったか分からないままタピスに蹴り飛ばされて命を終えた。その隣の奴も蹴りあげて顎から吹き飛ばす。タピスの背後に居た男は剣を振り下ろすがあっさり躱され、ジャンプしながら膝で打撃を加えられ脳がグラリと揺れた。膝には魔力が無かったようで一瞬で死にはしなかったが、一瞬意識が吹き飛ぶ。気付いた時には首に両足が回されていた。タピスは宙に浮いた状態で男の頭を足で挟み込んだまま体を縦に一回転させる。男は首から体が持ち上げられ、宙を舞ったかと思うと、顔から地面に叩き付けられた。そのままの勢いでタピスは次々に敵を薙ぎ倒していく。あっと言う間にあたりは地の海に染まった。
「あぁぁ…ぁあ…」
地の海に最後に残った男が、恐怖に顔を歪めながら泣きそうな声を出す。タピスはゆっくりと彼に近付いた。歩く度にピチャリと水音が立つ。靴についた血が一瞬糸を引き、また血の中へ戻っていった。
「ぁぅ…」
男は腰が抜けたのか立ち上がろうともがくも立ち上がることが出来ない。必死にタピスと距離を置こうと足を動かすが、血に滑ってあまり効力を発揮しなかった。
そうする間にもどんどんタピスは近付いてくる。ついにほとんど距離が無くなると、タピスは男の前にしゃがみこんだ。
「答えろ。ここにドリミングのアイルは居るのか?」
「ぅぁ…はっ」
「居るのか?」
タピスは問いつめるが、敵は蛇に睨まれた蛙状態になり硬直してしまった。タピスはそれを見てはぁっと息を吐く。立ち上がると、一気に足を振り上げて男を絶命させた。
男の血がタピスの顔に掛り、白い肌が真っ赤に染まる。タピスはそれを袖で乱暴に拭ってから別の場所へあっと言う間に姿を消した。
場に残るは多数の死体と血で出来た海。ウィクレッタが去ったその場は、ファンタズマの隊員たちでさえその光景に絶句する他無かった。

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