死の色に染まる
「出撃!!!」
合図と共に隊員達は走り出し、当然の様にシルハ達も走り出した。高岱の高さは平野から見て50mほど。そこからFANTASMAの隊員達は飛び降りて平野へと足を進める。シルハ達も高岱から一気に飛び降りた。
「《守らるるは慈しみの風》」
レイチェルは飛び降りると同時に魔力を構成して呪文を唱える。すると、シルハ達4人の周りに柔らかな気流がまとわりつき、地面に降り立つ寸前に落下の勢いが殺される。魔法の力でシルハ達は無事に着地を決めた。
平野に降り立つと同時に前方に広がる戦場へと駆け出す。血の鉄臭い臭いが次第に鼻孔に感じられる様になるが、真っ直ぐ走り続けた。
「《渦巻く熱風は他者を捕える》!!!!!!」
駆け出しているシルハの耳に突如呪文念唱の声が飛込む。慌てて呪文を唱えようとするが、気付いたときには足下に小さな炎が産まれ、正に燃え盛ろうとしていた所だった。
「《静める力は全てを統率す》」
炎が燃え上がろうとした瞬間にルイの呪文と共に炎を水の球体がさっと包み込む。燃えた炎は水によって消しとめられ、炎の熱で水は一気に蒸発していった。
「たぁっ!!」
シルハの足下の炎がルイによって消しとめられると同時にレイチェルは呪文を唱えた男のみぞおちに強打のパンチを叩き込む。
「ぐはっ!」
あえぎと共に男は口内の唾を吐き出しながら腹を折るように少し前に傾いた。レイチェルは男の肩に両手を置くと、そこを軸に倒立をする。そのまま一回転をすると、降り下ろした足で男の背中に蹴りを叩き込んだ。
「がふっ」
レイチェルはいつの間にか魔法を発動させていたらしく、蹴りを入れられた男は、蹴りの威力と風から産まれる圧力で体を海老反りにさせながら有り得ないほど前方にすっ飛ぶ。男の進行方向に立っていたマーダは、魔力を纏い、姿を変貌させ、男に自ら突っ込んでいった。衝突するや否や、マーダは左手に付いた鋭利の爪で男の体を袈裟掛けにひっかいた。
「うぐっ」
男は引っ掛かれた部分から血を吹き出しながら苦悶の表情を作る。思いきり突っ込んだために傷が深い。男は膝を折ると地面に伏せた。
「終りです」
まだ息のある男にシルハはゆっくりと剣を抜き取る。男の顔を見ない様に、そのまま心臓に剣を突き刺した。しばらく血を吹き出し、痙攣を続ける男から剣を引き抜き、シルハ達は顔を見合わせるとまた駆け出す。走りながら目の前に立ち塞がる敵を斬り付け、命を終わらせながらひたすら戦地の中髄を目指した。
シルハは目の前にいた男を斬り捨てると、剣を斜めに振って血を払いながら斬り口を見つめた。次第に斬れが悪くなり、傷口はスッパリ斬れたと言うよりは力で叩き斬った様になっている。シルハはポケットから懐紙を取り出し、剣にまとわりつき斬れ味を悪くしている人間の脂を拭き取った。
「死ね!」
拭いている最中に、敵にいつの間にか背後をとられ、短刀がシルハの首に向けられ、男は短刀を降りかざした。
「《形は時として常識を崩しさる》」
シルハが冷静に呪文を唱えると、足下の土がボコリと盛り上がり、巨大な拳の形になって男を殴り付けた。
「がはぁっ!」
巨大な衝撃を受けた男の手から短刀が放れ、宙を舞う。シルハはそれを器用に掴み取ると、バランスを崩し、背中から倒れる男の心臓目掛けて短刀を投げた。
しかし、倒れているため短刀は心臓から外れる。代わりに開いた口に突き刺さり、喉を貫通した。
「うっ…!」
まさかそんなグロテスクにする予定はなかったシルハは顔を歪める。男は短刀を口から突き出したまま地面に倒れこんだ。
シルハは相手が絶命したことを確認すると、ふと自分の手を見た。
あぁ…染まっちゃった…。
手だけではない。自分の全てが染まっていた。死の色に、鮮血の赤に。
あぁ………汚い
「シルハ…?」
自分の手を見つめ、ボーッとしているシルハに、ルイは怪訝そうに声を掛ける。
「どうした?」
「あ、ううん…何でもない」
シルハは曖昧な笑みを浮かべると、手を見つめるのを止め走り出す。ルイはそんなシルハを見て首を捻ってから追い掛けた。

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あきゅろす。
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