紅く染まり始めた平野
「…と、言うわけで暫くはここで待機。だけど直ぐ動けるように準備を整えておけよ」
一通り説明を終えたヴィクナが「解散!」と言うと、2番隊の者は直ぐに始動出来るように各々武器を調整したり、体を温めたりと、行動を開始した。シルハ達も例外では無く、各々準備体操を開始する。準備体操と言えばなんか間抜けな気はするが、これはとても大切な事なのだ。
「今日はシル兄と別れないよ僕!」
マーダは鼻息荒く魔力の放出をし始める。無駄な魔力の放出を避けさせようと、シルハは頷いて頭を撫でて上げた。
「今日は一緒に居ようね、マーダ」
そう言えば、マーダは満面の笑みで大きく頷く。気合いを込めたせいで放出した魔力も、マーダの気が安定すると無くなった。
「今日は頑張らないとね!よっし、頑張るぞ!」
レイチェルは体が温まると、開いた左手に右手の握り拳を叩き付けて気合いを入れる。それを見たマーダはレイチェルの真似をしたが、あまりに強く叩き付けすぎたせいでじぃ〜んと左手が痛み涙目になった。
「今日は湿気が少ないな…」
昨日みたいな湿気が多い方が、どうやら水使いは戦い易いらしい。ブツブツとルイは文句を言うが、シルハはこっちの方がジメジメしてなくて良いなと思った。今日は昨日の霧が嘘の様に良く晴れわたり、カラカラとした過ごしやすい天気だ。
「おい…!始まったぞ!!!」
一人の隊員の声に全員の視線が平野方面へ集中する。隊員達は平野を見るために移動を開始し、シルハ達も作戦が無駄にならないよう敵に見えないように細心の注意を払いながら平野を見つめた。
平野では既に1番隊とテロリスト達が激闘を繰り広げていた。雄叫びや悲鳴。武器が擦れ合う音や魔法が発動された時の音が響きわたる。所々で火の手が上がったり平野が氷ついたり、召喚されたのか、巨大な生物が出現したりしていた。
こうして戦況を確認してみると、なるほど、確かに2番隊や7番隊に比べ、1番隊の勢力は圧倒的に少なく、どう見ても敵方の方が人数が多い。これではもう少し援護到着が遅ければ殺られるのは時間の問題だっただろう。
「ふぅ〜ん…こうやって戦いを傍観すんのは新鮮だねぇ」
「わぁっ!ヴィ、ヴィクナ隊長!!!」
ふんふんと戦況を観察していると、いつの間にか隣に居たヴィクナに、シルハは後退しながら驚く。あまりに驚き過ぎてシルハは足がもつれて尻餅を着いた。
「驚き過ぎだろシルハ」
「す、すいません…!」
自分でもオーバーリアクション過ぎたな、と思ったシルハは顔を赤らめながら謝る。
でも…気配無かった…。
完璧に気配が消えていたヴィクナの突然の出現に驚かない方がどうかしてる。現にルイもマーダも、突然のヴィクナの登場に目を丸くしているでは無いか。
「あのぉ、いつ頃出ますか?」
3人が驚く中、レイチェルだけは平然とヴィクナに質問をする。全く驚かなかったのか、はたまた驚きはしたが切り替えが早かったのかは定かでは無かったが、レイチェルの図太い神経にシルハは脱帽する気持ちだった。
「ん?ウチと敵さんが合わせて50人逝ったら」
ヴィクナは平然と凄いことを言うと、平野に転がる死体の数を数え始める。まだ始まってそんなに時間が立ってはいないと言うのに既に沢山の人間が地面に転がって息絶えていた。平野は次第に赤く染まり始め、死者など直ぐに50は行ってしまいそうで、シルハは恐ろしさに身が震えた。だが直ぐに気持ちを切り替える為にレイチェルの方にシルハは向き直ると右頬を指差す。レイチェルは小さく頷くと、シルハの右頬をむんずと掴んで思いきりつねった。
「いただだだ!!!!OK!もうOKデスネ!」
シルハは痛みで最後の方の語尾を外人口調にしながらレイチェルにギブを訴える。パッと手を離すと、捕まれていた所が見事に赤く腫れ上がっていた。
「ふぅ…よし…。ありがとうレイチェル」
「どう致しまして☆」
抱いた恐怖心を消すには痛みが一番。精神世界から現実に引き戻され、少し冷静になれる。自分でやってもあまり痛くないので、最近では格闘家であるレイチェルに頬をつねって貰うのだ。
「…よし、50いったね。2番隊!!!出撃しろ!!!」
そんな騒の中、あっと言う間に出来上がった死体の数を数えていたヴィクナが、出撃の号令を下す。隊員達は、各々平野に降り立つと、味方と敵が入り混じる戦地へと身を投じていった。

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あきゅろす。
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