覚悟を決めろ
移動車へと急いで駆け寄ると、まだ乗り込みは終わっていないみたいで、人が外に列をつくっていた。
ゼェハァと荒い呼吸をしながら足を止めると、取り合えず全員で安堵の溜め息を漏らす。すると、5人の到着を見たレイアが歩み寄って来た。
「あら貴方達、コレ、まだ持って無いわね」
そう言いながら、レイアはバッチを取り出す。四角い形をした小さなバッチには、黒地に黄色の文字で「U」と書かれていた。
「何ですか?コレ」
シルハ達は受取りながらそのバッチを確認する。レイアは笑いながら質問に答えた。
「これは"隊証(たいしょう)"。今回は合同任務で味方と言えど知らない人とも居るでしょ?味方同士での戦闘を防ぐ為に、合同任務ではコレを付ける決まりなの」
目立つ所に付けてね!とレイアは言うと、まだもらってない人が居ないか探しに行く。この隊証は命綱なのだな、とか思いながらシルハは服に隊証を付けた。
「さっさと乗るか」
「そだね」
ルイの呼び掛けにシルハは頷くと、5人は車に乗り込むために車の前にたまっている列の最後尾に並ぶ。車に乗り込んでから5分程してから、エンジンがかかり、車は発車した。
今回の任務は既に昨日聞いている。いくら今回は3隊合同と言えど、全く気の抜けない戦いになるだろうとシルハは思った。敵とて、かなりの実力者だ。
シルハはふと右腕の袖を捲り、に填められた金色の腕輪に目をやる。2日前に見た夢のような話を思い出した。
〔バンクルが外れたらいっぱい話そ?〕
そう言った自分に良く似た少年の姿を思い出す。
ジルクはシルハの魔力の色が2色あるのは自分の魔力とシルハの魔力が体内に存在しているからだと言った。その言葉の意味は、このバンクルが外れたとき初めて理解できるのだろう。
「いつ…外せるのかなぁ…?」
シルハは思わずボソリと呟いた。一体そんな日はいつ来るのだろうか。
「お前に魔力コントロールの基礎が身についたらだろ」
隣に座っていたルイは、そのシルハの呟きに、バンクルに目をやりながら答える。
「だよね…」
シルハはその言葉にハァッとうなだれた。そんな日がいつ来るやら。
大体タピスに言われたステップ2も、ほぼ完璧に扱える様になっていた。しかし、肝心のタピスに修行を見て貰えないので、次のステップに進むことが出来ない。
「いつになるんだろ…」
こんな調子じゃきっと1年後とかなんだろうなとか思うと、シルハは妙に泣けてきた。なんたって、まだタピスに2回しか修行を付けて貰えていないのだ。そろそろ入隊4ヶ月に入ろうとしているわりには、全く修行が進んでいない。
「シルハ君、この修行は根気が大事だと思うわ」
「頑張ってシル兄!!!」
何故かシルハの思考を読んだように励ますレイチェルとマーダに、そんなに顔に出てたかな?と苦笑いしながらシルハは頷いた。
確にまだバンクルを取るのは些か気が引ける。現在の倍の魔力コントロールが出来る自信が自分には全く無い。それに、なぜたかジルクの秘密を聞きたく無いような気がした。
「…そろそろ着くみたいだぞ?」
急に周りが騒騒しくなり始め、ルイは周りの会話を聞いてシルハ達にそれを伝えた。
そろそろ任務開始だ。気を引き占めて掛らなければ。
シルハは気合いを入れ直す為に、目を瞑り、ジルクの事を一旦考えるのを止め、任務の事だけを考えた。
今日の任務は3隊合同。
敵は許多(きょた)のテロリスト。
任務内容は簡単。
敵の殲滅。ただそれだけ。
シルハは目を開くと、覚悟を決めた。
自分の正義の為に命を終わらさせる覚悟を。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!