良く効きます
青ざめた顔をしたヴィクナは、はぁぁぁっと長く溜め息をつく。それを耳元で聞いたミクは、ぐるりと勢い良くヴィクナに顔を向け、初めてヴィクナの顔色に気付いた様だ。いきなり顔から笑顔が消え、額からは汗が吹き出した。
「ヴィクナ!どうしたの!!?顔色が酷く悪いわ…!!」
「二日酔い…だと思う……」
「二日酔い!!?あぁ…可哀想なヴィクナ…。…はっ!タピス!!あんたそれに便乗してヴィクナを襲ってないでしょうね!!?」
「襲うか!!なんでテメーは何でもかんでもそこに持ってくんだこの桃色思考女!!」
ぎゃーぎゃーわめく2人と巻き込まれた1人を見つめながらザルディは思う。
「俺…忘れられてね?」
そんなザルディはさておき、罵声の板挟みにされたヴィクナはもう我慢の限界だった。気持悪くてうまく制御できない魔力を一気に解き放つ。魔力の放出で、急に気圧の変化が起こり強風がヴィクナを中心に円を描くように巻き起こった。
「耳元で騒ぐな…気持悪い…吐くぞ?この風に乗せてゲロぶちまけるぞ?」
静かに言いはなつヴィクナ。タピスはさすがに嫌だと思ったのか顔を引きつらせて黙りこくる。ザルディは巻き込まれてたまるか!とムーンウォークで逃げ出した。
「ヴィクナの口から出たものなら喜んでもらっちゃうわ〜〜〜★」
そんな中、一人変態発言をするミク。騒ぐと本当にゲロをぶちまけられそうなので、取り合えずタピスはミクに踵落としを食らわせた。
「ぎゃふん!」
ミクはぎゃふんと言って地面に倒れこむ。頭を思いきり打ったのか、白眼を剥き、大の字になって気絶をした。
「…よしヴィクナ!薬もらいに行くかぁ!!!」
煩い原因が消え去ると、ザルディはテントの陰からのそのそと這い出て言う。ヴィクナが頷き、ミクが来た方へフラフラ歩いていくと、ザルディはミクを担いでタピスと共にヴィクナに続いた。
「あ、そこだそこ」
ザルディは1つのテントの前にたどり着くと足を止める。
「リズ!居るか?!入るぞ!」
そう言うと、ザルディは許可なしにズカズカと入っていった。かなり限界間近なヴィクナは直ぐに後に続く。タピスは一瞬躊躇したが、仕方なしに入っていった。
「ザルディ隊長!返事聞く前に入ってくるのは止めて下さいって…なんでミク死んでるんですか?」
テントに入ると、返事をする前に入ってきた一行に、慌てて机の上のカップをかたしていたリズが、少し立腹したようにザルディを見る。すると、肩に担がれた白眼を剥いたミクを見て目を丸くした。
「色々事情があってな。それよりミク、ヴィクナが二日酔いになっちまったから薬をやってくれ」
「お願いじばず」
ヴィクナは青い顔をしてうっぷ、と口を手で押さえる。マズイと思ったリズは、慌てて薬箱をあさり出した。
「おい」
薬箱をあさっているリズの隣に立つと、タピスはリズの顔を覗き込むように状態を前に倒す。
「はい……」
リズは顔をあげるとバチッとタピスと視線が合ってしまった。燃えるような真紅の眼、状態を前にしているせいで、宙に揺れる艶やかな漆黒の髪。男とも女とも取れる中性的で、整った顔立ち。リズは目を奪われて一瞬硬直した。
「昨日ミクの糞が俺の髪飾りを持ってなかったか?」
「えっ!あ、あ、あぁ…!ザルディ隊長が昨日預けに来て…確か…そこの棚の中に入れてました」
タピスの言葉に我に帰ったリズは、出来るだけ平静を装ってタピスに場所を教える。
「そうか。ありがとう」
そう言うと、タピスは口元にうっすら笑みを浮かべた。その笑い方がとても綺麗で、リズはなぜミクはこの人が嫌いなのだろうと一瞬考え、自分の思考のアホらしさに直ぐ終止符を打った。ミクの性格を考えれば、この人が嫌いな理由はすぐわかる。
リズは直ぐ様薬を取りだし、水をコップに酌むと、ヴィクナに手渡した。
「私が処方した物です。ザルディ隊長には良く効きますが、ヴィクナ隊長にも効けば良いのですが…」
「ザルディに効くなら大丈…夫…。ありがと……」
ヴィクナはそう言うと、薬を受け取るなり一気に飲む。コップの水も綺麗に飲み干した。
その間、タピスは言われた棚をゴソゴソとあさる。すると、オレンジ色の羽が目に入り、タピスはそれを棚から出した。
フロウィが幼いころ作った髪飾り。タピス、フロウィ、ナナハ。みんなでお揃いの物。多分、宝物は何か、と聞かれたら間違いなく3人してこの髪飾りだと言うだろう。女々しい話だが、自分達にとってこれはとても大事な物だった。いつ命を落とすとも知れぬ身だから。
そんな大事な物を、昨日髪を拭いているうちに酔ったザルディに盗まれたのだ。かなり気を抜いていた時にやられたので、無くなったのは半分自分のせい。そんな自分の憤りにちっと舌打ちしながら、タピスは髪を結い上げた。この髪飾りは直接髪を結ぶ紐の役割も果たしている。
「ぷっは〜〜!!!効いた!!!すごい速効性だ…ありがとうリズ!!!」
そのとき、さっきまで青い顔をしていたヴィクナは爽快な笑顔を向けリズにお礼を言う。相当効いたのだろう。かなり快調の様だ。
〜♪♪〜〜♪
にんまり笑顔を浮かべたヴィクナから急に電子音が響く。
「およ?」
ヴィクナは目を丸くしながらゴソゴソと通信機を取り出した。
「おっはぁ〜。ヴィクナだよぉ」
『ヴィクナさんおはようございます。タルットです。今から野営地を出てそちらに向かいます』
「了〜解。待ってるよ〜」
ヴィクナは会話を終えると通信機を切り、元の場所へしまいこむ。
「あんだって?」
ザルディは怪訝そうな顔をしながらヴィクナに尋ねた。
「今からウチとタピスの隊が野営地からこっち来るってさ」
ヴィクナの言葉にザルディは考え込むように腕を組んでから、出口に向かって歩き出す。
「お前ら!作戦会議でもすっぞ!」
「うぃ」
ザルディの呼び掛けでウィクレッタ面々はテントを出ていく。気絶したミクと二人きりで取り残されたリズは、わけがわからず目を丸くしていた。

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