荒野に咲く一輪の花
トンテンカントンテンカン
響く響く金槌の音。シルハもテントを固定すべく、地面に金槌で釘を打ち付けていた。
「ふぅっ…完・成」
清々しくシルハは汗を拭うと、立ち上がって大きく伸びをする。
「ルイ〜出来た?」
「あぁ…出来た」
どうやら自分達が担当していたテントは完成した様だ。シルハは10人分の巨大なテントを見つめ、一息ついた。
「よし、これで霧から逃れられるね」
「だな…」
周りに立ち込める霧を少し睨みつけていると、テントの同居人がやって来るのが目に止まった。
「終わったか?じゃ、休むぞ」
「うん」
そうシルハを促したのはシルハ達の1期前に入隊したバーサーカー。このテントは、1期前のバーサーカー5人と、今回の新入隊員5人の男部屋だ。テントを張る場合は必ずこの組み合わせだった。
霧から逃れ、やっとこさテントに入るとゴロリとシルハは横になる。テントを張る作業、テントのサイズもあってかかなり体力のいる仕事だ。
「疲れたぁ…」
シルハはそう言うと瞳を閉じる。すると、テントに人が入ってくる気配がした。
どうせ同居人だろうとそのまま目を瞑り続けていると、いきなり顔が何かの衝撃に襲われ、その衝撃で顔が強制的に横を向かされた。
「痛っ――――!!何!!?」
「何呑気に寝てやがる」
シルハは目を見開き、衝撃が加えられた右頬を掌で押さえながら起き上がる。すると、目の前に腕を組んで片足を上げているラグスが立っていた。そのあげていた足をゆっくり下ろしたのを見ながら、コイツに顔を蹴られた事を理解する。シルハはそれがわかるとギラリとラグスを睨みつけた。
「仕事終わったんだからいいじゃん。自分の仕事が俺よりも遅かった事へのひがみ?」
シルハは上目使いで口元に少し嘲笑を浮かべながら尋ねる。他の人ならこんな風にはならないが、何故だかラグスだけは癪に触るのだ。生理的にどうしても受け付けられないタイプなのだろう。
「はっ、テメーの手抜き作業と違って俺のは確実な作業なんだよアホ」
そんなシルハを見下しながらラグスも嫌味っぽく笑みを浮かべる。二人の後ろに黒い炎が見えるな、と少し遠くで傍観していたルイは思った。
「悪いけど、君みたいな人より確実で早い自信はあるな」
「言ってろ。そのうちテメーの手抜きのせいでこのテント、潰れるぜ?」
ラグスはそう言うと、クックッと笑ってテントの奥の方へ歩いていった。
「……何がしたかったんだ?」
本当にわけわかんない上にムカつくし癪に触るし大っ嫌いだ。
シルハはそうラグスへの意識を再認識すると、またゴロリと寝っ転がった。
しばらくすれば、10人全員が揃い、思い思いの場所でくつろいでいる。外はもう夜だろうか。虫の声が遠くに聞こえた。
「あの〜すいませ〜ん」
その時、テントの外から声が聞こえる。聞き覚えのある女性の声だ。
「ここにシルハ君いらっしゃいますか?」
「は、はい」
声の主が思い出せないまま、指名されたシルハはガバリと起き上がって返事をする。
「あ、よかった。私フロウィ。入って良いかしら?」
フロウィ副隊長…!!?
「は、はい!!どうぞ!!」
シルハはその声の主を理解するなり勢い良く正座の体制を作る。フロウィの名を聞き、他の隊員達はざわめき、奥に居たラグスもチロっと顔を上げた。
「お邪魔します。ごめんなさい休んでる時に」
そう言いながらフロウィがテントに入ると、まるで春の訪れの様にパァッとテントの中が明るくなる。野郎ばかりのむさい荒野に一輪の花がそえられた。
「どういう描写だよ」
「どうしたのシルハ君?」
空を見つめながらわけのわからない事を言うシルハに、フロウィは首を傾げながら尋ねる。シルハは慌てて首を横に降りながら笑って誤魔化した。
「どうしたんですか?」
シルハは笑顔を顔から消すとフロウィに尋ねる。フロウィはそれを聞くとニッコリと微笑んだ。
「ううん、大した用はないんだ。ただシルハ君、体調どうかなって」
それは正に天使の微笑み。隊員達の顔が自然に綻んでいる。ラグスがその微笑みを見て、慌てて顔を下に向けたが、顔が赤面していたのをシルハは見逃さなかった。
「大丈夫です。わざわざありがとうございます」
シルハは内心にやけながらフロウィにお礼を言う。フロウィはそれを聞くとホッとしたように微笑みを広げた。本当に可愛いとシルハは思う。
「あ、ちょっと外で話さない?霧が晴れてきて星が綺麗なの」
「は、はい」
フロウィの言葉に驚きながらシルハは元気良く答える。周りの男からの視線が痛い気がするがあえてそこはスルーすることにし、2人で外に出た。

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