切なる願い
やっと目的地に到着した2人はふぅっと息をつくと霧から逃れるようにテントに身を隠した。
テントに入るなり、ヴィクナは濡れた服をパンパンと叩いて水分を飛ばす。それを見たブラビスは急いでタオルを取り出すと、ヴィクナとタピスに1枚ずつ渡した。
「ありがと♪」
ヴィクナは柔らかいタオルを受けとると、嬉しそうに濡れた顔や髪を拭く。タピスも、漆黒の髪をほどいてバサッと軽く髪を拭いた。
「あ、ザルディ。土産だ」
「感謝しろよん♪」
ヴィクナとタピスはそう言うと酒と煙草を取り出す。ザルディはそれを見た瞬間、玩具を与えられた子供の様に目をキラキラと輝かせた。
「酒!煙草!!お前ら愛してるぜ〜」
ザルディは受けとると、直ぐに空のキセルに煙草を入れて火をつける。美味しそうに煙を吸い込んでからハァっと紫煙と共に息を漏らした。
「…美味いのか…?」
「あぁ…最高だ…」
「わからんねぇ…たんに煙いだけじゃん」
髪を拭きながら尋ねたタピスにザルディは椅子に腰掛けながら答える。ヴィクナは理解不能と言うように渋い顔をした。
「さてと、脂(やに)も補給したし、これからの話でもすっか」
ザルディはまたキセルを吹かしながら目でブラビスに指令を送る。ブラビスは直ぐ様折り畳み式の椅子を2脚用意し、2人に座るように促した。
机を囲むように座った3隊の隊長は、机に広がる地図に目を落とす。ここ周辺の地域の地図で、現在地に赤いマーカーで「×」がついていた。
「ま、現在地がここな。で、ここで敵とドンパチしたわけよ」
ザルディは始め、赤い「×」を右の人指し指で突き、指の腹を付けたまま、ズズッと3pほど南に指をずらした。1pがおおよそ250mの地図なので、1qも離れていない。
「1週間前にここで"ゴッティスト"ってなテロリストグループを潰しに掛ってな、まぁ弱ぇ癖に無駄に人数だけはいるグループでよ。1日じゃ殲滅しきれなかった」
ザルディはキセルを上下に動かしながらモソモソと喋る。話すときくらいキセルを口から外せと思うが、まだ十分に紫煙を吸い込んでいないザルディは短気なので特に2人して何も言わなかった。
「んで1週間も立つと今度はドリミングやら何やら、別の奴らが加勢して来やがってよ。1週間で大分数が減らせられたからもう残りの耳っカスの掃除くらいにしか考えてなかった俺の隊の1/3近くが殺られた。不味いことにゲルゼールも1人失っちまったよ」
ザルディはちっと溜め息をつくと、また煙を吸い込む。紫煙を吐き出せば、あまり煙草が強くないタピスは臭いと顔を歪め、ヴィクナは思わず煙を吸い込んでしまいむせた。
「で、この日を境にどんどん加勢が来てよ、今じゃ半分は殺られたな」
ザルディはそこまで話すと地図から目を放し、椅子の背持たれにグッタリと寄りかかって天井をボケッと見つめる。
「ザルディ。今はテロリストグループはどれくらい集まってる?」
タピスはそんなザルディを真っ直ぐ見つめたまま問掛けた。
「あ?4・5グループくらいか?これからもかなり増えるだろうな。その前に潰してぇ」
ザルディは顔を真っ直ぐに戻すと真面目な顔をしながら机をバンと叩く。急な動作に内心ビビったヴィクナだが、何でもない風を装って軽い口調で尋ねた。
「何人くらい強い奴いるの?」
「出来る奴はそれなりにいるな。ただ、わけわからん餓鬼が一人いた」
ザルディは思い出すと眉間に皺が寄る。ヴィクナとタピスは"餓鬼"と言う単語に一瞬顔を見合わせてからザルディの方に向き直った。
「餓鬼ってどんな奴?どれくらい??」
ヴィクナの問いにザルディは今度は頭を机の上に乗せて、キセルを天に掲げるように顎を少し上げ、しゃくれ顔になりながら"餓鬼"の姿を思い浮かべた。
「うっすい茶髪の巻き毛した餓鬼だ。14,5ってとこだな。アイツ…魔法以外の何かを使ってやがる」
ザルディの言葉にヴィクナとタピスはまた顔を見合わせた。
「ラクシ…ミリア、か?」
「かもね」
魔法以外の何か。それはもしかしたら呪術かもしれない。ナナハが持って帰ってきた情報によれば、ドリミング長のアイルはラクシミリアを探していたと言う。確証は無いが、可能性は十分にあった。
「はぁ?なんだそのなんとかミリアって」
ザルディは訳がわかりませ〜んと言うように目を細める。タピスはチラリとザルディを見てから、ザルディの顔の前にドンっと酒瓶を置いた。
「俺とヴィクナが考えっから、テメーは酒でも飲んでろ」
様は考えるのにテメーは邪魔だ、と言ってるわけだが、ザルディはさして気に留めない様に酒瓶に手を伸ばす。ポンっとキャップを外すとそのままラッパ飲みを始めた。
「ラクシミリアが出てきたら不味いね…」
「……まだ確証はない。居ない事を祈るさ」
タピスはそう言うと通信機を取り出し、フロウィに連絡を入れ出す。ヴィクナは頬杖をついてイーディテルアの受けた呪いの事を考えた。
「ほんと…居なきゃいいね…」
ヴィクナは何と無く椅子から立ち上がると、布を捲り外を見る。この濃い霧が、何とも嫌な予感を漂わせた。

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