霧の中を駆け抜けて
煙草と酒をキチンと準備してから戻ってくると、リズはそれを見てなんと準備が良いことかと口元を緩める。リズも中々酒+煙草が切れたザルディには困っていた様子だ。
「霧が濃いので私を見失わない様に注意して下さい。まぁお二人なら問題ないとは思いますが」
リズがそう一言注意すると二人は頷いて、ヴィクナはサッと箒に跨る。タピスはクルリと後ろを向いてフロウィを見た。
「フロウィ、恐らくお前らはここで休む事になるだろうから準備をしとけ。それと、何かあったときはお前の判断で指揮を取れよ。向こうに着いたら連絡入れる」
「わかったわ。いってらっしゃい」
タピスは直ぐフロウィに指示をし、フロウィは力強く頷く。ヴィクナはそれを見てからタルットを見た。
「指示は同じで」
「便乗ですか?」
タルットの言葉にタピスは溜め息をつき、その溜め息に苦笑いをすると、ヴィクナは前に向き直る。
「ではついていらして下さい」
リズはそう言うと半端ない跳躍力で木へと飛び移る。タピスは直ぐ足に魔力を集中させてステップダンスを発動させると、あっと言う間に姿を消し、ヴィクナも呪文を唱えると、猛スピードで箒を飛ばした。
「お前、良く霧の中を来れたな」
森の様に生い茂る木と木を飛び交いながら進むリズの直ぐ後を追い掛けながらタピスは尋ねる。こんなに近くを走らなければ見失いそうなほど濃い霧から良く自分達を見付出せたものだ。
「私は探索が得意、とだけ言っておきます」
リズは顔は真っ直ぐのままタピスに答えると、「スピードを上げます」と言い更にスピードUPする。タピスにとっては、それでもなんともないスピードで余裕でついて行った。
「二人とも、ちょっと早い!!」
ヴィクナは箒に跨り、やっとタピスに追い付くなり怒鳴りだす。
「霧で顔がグシャグシャになるよ」
尋常では無いようなスピードで駆け抜ける二人に顔を拭いながら文句を言った。そのスピードのせいで、すでにぐっしょりと濡れているのだ。
「煩い黙れ。騒ぐと敵に場所を教えてるもんだぞ?」
タピスはヴィクナの声にイラッとした声色で言い放つ。ここは戦場だ。敵が何処に潜んでいるかもわからない。こう霧が濃くては敵に自分達の位置だけがバレるのは命取りになる事もあるのだ。
「でもさ、もうちょっとゆっくりで良くない?アンタも髪ぐっしょりでしょ?」
ヴィクナは眉を寄せてタピスに尋ねる。
「濡れたところで何だ」
タピスはその問いにしらっとした表情で返す。濡れた前髪が顔に張り付いているがさして気に留めている様子も無かった。
「リズは?」
ヴィクナはチラリとリズを見るが、リズは笑いを堪えているだけで答えようとはしない。彼女もかなり濡れている様には見えるが、やはり気にしている風は無かった。ちぇっといじけたような声を出すとヴィクナは少しふくれっ面になって黙り込んだ。
「もう少しで到着です」
リズはそう言うと、少しスピードを上げる。ヴィクナとタピスもそれに合わせてスピードを上げた。もちろん、ヴィクナの仏頂面に磨きをかけてしまったが。
「この後川を飛び越えますので。まぁお二人には関係ないと思いますけど」
「だね」
リズは一回後ろに付いてくる二人をチラ見し、ヴィクナは即答をする。タピスは兎も角、空を飛ぶヴィクナには何の問題もない。
次第にザーと言う、激しい流水音が耳に届く。
「川幅は15m程です」
「わかった」
霧のせいで向こう岸が見えない。どれ程の距離を飛び越えれば良いか推測がつく様に、リズはタピスに教えた。
川に辿り着くと、二人は思いきり跳躍し、幅の広い川を難なく飛び越える。ヴィクナはその跳躍力に多少驚きながら箒で空を飛んで軽々と飛び越えた。
「ここからはゆっくり目に進みます」
今までのスピードは全て川を飛び越えるための助走の様な物だったらしい。川を飛び越えた後は普通のスピードで走り出す。カラカラと底の厚い下駄が音を響かせて初めてリズが下駄を履いていた事に気付いたヴィクナとタピスは目を見開いた。今までのあのスピードや大ジャンプを下駄でこなすのはかなりの技だ。一回目を見合わせてから、ヴィクナは相変わらず飛んだままだが、タピスはステップダンスの発動を止め、走って付いて行った。
「着きました」
リズはそう言うとスピードを緩め立ち止まる。二人も止まって見回すと、うっすらとテントが見えた。
「こちらです」
リズはスタスタと歩いてザルディの元へと案内する。タピスはヴィクナが箒から降りるのを確認すると、2人並んでリズの後に続いた。1つのテントの前に止まると、リズは声を張り上げる。
「リズですザルディ隊長。ヴィクナ隊長とタピス隊長をお連れしました」
「おぅヴィクナ!タピス!さっさと入りやがれ!」
リズの声に待ってましたと言わんばかりにザルディが顔を出す。2人を見るなり豪快な笑い声を上げると、中に招くように身を引いた。
「おっ邪魔」
ヴィクナはこの霧から抜け出せるのが嬉しいのか、鼻唄混じりで中に入る。タピスも続くと、リズは自分のテントへと戻り、ザルディはテントの中へと入った。

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あきゅろす。
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