心臓に良くない
灰色
太陽を隠しさった濃厚な霧が辺りを灰色の世界へと変えている。ヴィクナはこの霧で一旦動きを止めた車の中で、苛々と貧乏揺すりをしながら腕を組んで座っていた。
「濃い…」
ヴィクナはフロントガラスから外を覗き一言呟くと、また苛々と貧乏揺すりを始める。タルットは溜め息をつくと外を見てから顔だけを動かしたヴィクナを見た。
「この霧じゃ動くのは危険ですよ。先方もこの霧じゃ動かないでしょうしゆっくりしましょう」
タルットの言葉にヴィクナはグルリと顔のパーツを全部中心に寄せるように顔を歪めながら睨みつけると、ドスの聞いた声で怒鳴った。
「アタシは待つのが苦手なんだ!!」
「短気ですねヴィクナさんは…」
ヴィクナの言葉に今度はレイアが溜め息をつく。ロットは会話を聞いて何が楽しいのかクスクスと笑っていた。
コンコン――
その時、車体を叩く音が耳に入り、全員で瞬時に身構える。一瞬にして車内に緊張が走り、シンと静まり変えった。
「…誰だ?」
「俺だ」
慎重な声色でヴィクナが伺うと瞬時に返事が返ってくる。古くからの知人の声に安心し身構えるのを止めると、ヴィクナは運転手に命じてドアを開けさせた。
「タピス、フロウィも。びっくりさせんなよ」
中に入ってきた人物を見て、ヴィクナは口を尖らせながら文句を言う。
「ごめんなさいヴィクナちゃん」
フロウィは申し訳なさそうな笑顔を浮かべ謝るが、タピスは完璧シカトを決め込んで用件を話し出した。
「外に出ててみた限りだとかなり霧が濃いからこれ以上進むのは無理だ。今日はここで休む算段を立てた方が良いな」
タピスの言葉を、足と手を組ながらデかい態度で聞いていたヴィクナはチラリとまたフロントガラスから外を見つめる。ずっと続く灰色の世界にを見てから車内に視線を戻すと、ヴィクナは苦笑いを浮かべた。
「テント張るのも一苦労そうだねこりゃ」
意味は違うが、まさに一寸先は闇状態。ここまで視界が悪いのはなんか悪い事の前兆のような気がしてヴィクナは顔を歪めた。
「取り合えず、ここで休む。ザルディには俺が鳩を飛ばしとくから、お前は自分の隊にさっさと指示出ししろ」
「わかった、おっさんの対応頑張ってね」
その言葉にタピスは思わず苦笑いを浮かべてしまった。長期任務、酒も煙草も切れた状態では相当苛々が溜ってるに違いない。そんな男の対応には些か気が引ける思いがした。
「酒と煙草、持ってきたからわめくなと言えば黙るさ」
タピスは霧の中を抜けてきた為、少し濡れた前髪を横に払いながら言うと、車を出ようとドアに手を掛けようとした。
ドン――
その時、突然天井から、何かが乗ったような低い音が響く。車内にいた全員が驚き顔を上げてから、勢い良く車から飛び出した。
「誰だ!!?」
ヴィクナは飛び出すと同時に車体の上に居る人物に目をやる。だが、霧が濃すぎてシルエットしか映ってない。全員身構えて戦闘体勢に入った。
「私です。リズですよ」
車体の上のシルエットはそう言うと、軽やかに車体から飛び降りると、顔がなんとか判別出来る位置まで来た。
「わぉ。リズか」
「驚かせんなよな!!心臓に良くねーよ…」
その姿を見て、レイアとロットはホッと息をついてからリズを咎める。リズは悪戯っぽく笑うと、ヴィクナとタピスの方を見た。
「ヴィクナ隊長、タピス隊長。我が部隊長ザルディよりの命令でお迎えに上がりました」
リズはそう言うと深々とお辞儀をする。ヴィクナとタピスは一旦顔を見合わせてから、直ぐに酒と煙草を取りに向かった。

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