辺境の地での暗躍
暗い暗い闇の中、椅子に座った人物は近づく足音に耳を澄ませていた。
ここはうっそうと茂った木々に覆われた山にある大きな屋敷の中。豪華な装飾品をつけた柔らかい椅子に座った人物は漆黒の瞳をこの部屋のドアの方に向けている。このような辺境の地に足を踏み入れた来訪者を待って。
「アイルさん…なんか不気味なところですね…」
オレンジ髪に童顔の少年、ムーファはキョロキョロと蝋燭の光のみで不気味に照らし出された廊下を観察しながら、前を歩く赤毛の男に話しかけた。
「そう言うなムーファ。これから大事な方に会いに行くのだ」
アイルはムーファの方など向かずに、ただ目的の部屋に向かって歩みを進める。ムーファは黙ってアイルについて行った。
「ここだ」
そういいアイルが止まったのは廊下の行き止まりでドでかく構えられた重厚な扉の前だった。
天井ギリギリまでそびえ立つ豪華な金作りの装飾で施されたその扉は、蝋燭の柔らかい光を受け、鈍く輝いている。
「ゆ…幽霊屋敷みたい…」
堪えきれずに、ムーファはポツリと感想を述べた。
「アイルさん…、ここに誰が居るんですか…?」
こんな悪趣味なところに居るのはいかれた老人だろうか?そんな人をアイルがなぜ『大事な方』などと言うのか、ムーファは理解できずにいた。
「この奥に居るのは…"呪術師"だ…」
「"呪術師"…?」
聞き慣れない単語にムーファは首を傾げる。この世には"魔術師"、魔法使いは存在するが、"呪術師"などは聞いたことも無かった。
「入るぞ。失礼の無いようにしろ、ムーファ」
「は、はい」
そう言って重厚なドアをゆっくりと開くアイル。ムーファの身体には緊張が走り、背筋に汗が浮き上がってきた。
ギギギィィ――
鈍い音を立てて重い扉がゆっくり開く。
ムーファはアイルの後ろからのぞき込むと、そこにいた人物に驚愕した。
そこに居たのは13、14歳ほどの美しい少女だった。深い椅子にゆったりと座り、相変わらず蝋燭のみの光に照らされた少女の肌は、闇に不気味に白く輝く。ムーファは背筋がゾッとするのを感じた。
「お初にお目に掛かります…ラクシミリア嬢…」
アイルはゆっくりと少女、ラクシミリアの前まで進むと、跪き、お辞儀をした。
「今、世を動かす"ドリミング"長…アイル・モルソーか…」
ラクシミリアは相変わらず腰を掛けた姿勢のままゆっくりアイルに視線を落とした。
「私に何用だ?」
ラクシミリアは感情のこもらぬ声でアイルに尋ねた。アイルはゆっくり顔を上げると跪いたままラクシミリアを見上げた。
「あなたのお力添えをして頂きたく…その呪われたお力を…」
ラクシミリアはその言葉にも動揺を示さず、無表情でアイルを見つめた。
「私は今の国がどうなろうとも、更々興味はない」
ラクシミリアはそう言いながら立ち上がり、ゆっくりアイルの方へ進んできた。
「貴様が、私の願いを叶えてくれるというならば…私は主らに力を貸そう」
「あなたの願いとは…?」
アイルの問いにラクシミリアは天井を見上げる。闇に吸い込まれ、見えなくなった天井を。
「この身体を壊せ…全て終わったら…私を殺せ」
この時、ラクシミリアの表情が初めて変わった。冷淡な笑みを浮かべた顔が、蝋燭の光でゆらゆらと揺れる。
アイルはそう来るのを悟っていたように笑みを作った。
「お約束しましょうラクシミリア嬢…。全てを終えた時、あなたの運命を私が断ち切ります」
「はっ」
そのアイルの言葉に、ラクシミリアは嘲るような笑い声を上げた。
「そなたに私を殺せるというのか?死からかけ離れたこの呪われし身体を持つ私を」
おかしくておかしくてたまらないと言うように、ラクシミリアは顔を歪めた。
「出来るものか。月日すらも、私を死へと導けないのだ」
「お約束いたします」
ラクシミリアの言葉を遮り、アイルは言い放つ。ラクシミリアは無言でそんなアイルを見下した。
「私は呪によって自ら命を絶つことも、誰かに故意に絶ってもらうことも出来ない…。私と戦って殺す自信があると言うのだな…?」
「はい」
アイルはラクシミリアを見上げながらニヤリと笑みを作った。
「面白い…」
クスリとラクシミリアは笑みを作る。ムーファは目の前で交わされる2人の会話が理解できずに、ただ首を捻っていた。
「分かった…こんな世界に興味など無い。貴様らに手を貸そう」
「ありがとうございます。ラクシミリア嬢」
「嬢というのは止めろ。時は止まったが、私は貴様よりも年上だ」
「うそぉっ!!」
そのラクシミリアの発言に、ムーファは思わず声を上げた。どう見ても自分より年下の少女が、アイルより年上などとはとても信じられなかった。
「ムーファ!」
「あ、スイマセン…つい…」
アイルに怒鳴られ、シュンと身を縮めるムーファ。そんなムーファを見て、馬鹿にするようにラクシミリアは笑った。
「私は呪に縛られた存在。すでに何百年もこの地に生きている」
私のことはラミアと呼べ。
そう言うとラクシミリアは外に出るために歩き出す。
アイルとムーファもそれに続いて、暗い廊下を歩き出した。

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