笑顔のちから
「終り…?」
イーディテルアは自分の上に乗る少年の綺麗な瞳を見ながら少年の言葉を繰り返した。
「はい…」
少年はイーディテルアの真横に突き刺した剣を引き抜くと、首元に剣を当てた。
「…終りです」
首筋に鉄の冷たさが広がる。何かをすれば一気に首を掻き切られるであろう事は直ぐわかった。そう、自分が呪文を唱えるよりも早く。
そして上に乗り、動きを拘束されたイーディテルアにあがらう術はもうない。イーディテルアは諦めたように瞳を閉じた。
「あなたは…」
そしてもう一度瞳を開けると、少年の頬に手を添えた。
「どうして私を美しいと言ってくれないの…?」
イーディテルアと少年は見つめ合う。あの金髪の少女の前ではコロコロと表情を変えていた少年は、まったく表情を変えずに淡々と口を開いた。
「あなたは…傲りすぎました…。自分の美しさを…。その証拠がその呪いです…」
そして剣を握る手に力が入る。真っ直ぐ自分を見つめる少年のオッドアイを、イーディテルアは吸い込まれる様な気持で見つめていた。
「……傲らなければ…私は美しかった…?」
少年の顔を見ながら、イーディテルアは尋ねた。
もし…傲らなければ…私は…呪いを受けずに済んだ…?
「…はい。あなたは美しいですよ…」
すると、少年は無表情だった顔に優しい笑みを広げる。優しい優しい笑みを。
こんな風に…優しい笑顔を作れたら…私は…呪われずに済んだかしら?ねぇラクシミリア?
「分かったわ…負けよ…私の…」
イーディテルアは少年の頬から手を放し、地面に投げ出した。
すると、イーディテルアの顔から一気に生気が失せる。
「イ、イーディテルア!!?」
その変貌に少年は驚愕し、目を見開く。
「シ、シルハ!!」
すると、後ろから少年を呼ぶ声が聞こえた。
「ヴィクナ隊長…!?」
「呪いが…!」
ヴィクナのさっきの青い顔は元の顔色に戻り、声にもハリが戻っている。そしてヴィクナの胸元には、イーディテルアにつけられた黒き紋章が消えていた。
「…!」
シルハは驚き、イーディテルアに顔を向ける。
「負けたって…言ったでしょ…?魔力も返した…わ」
イーディテルアは小さく笑いながら声を漏らした。
「あなたの顔見てたら…馬鹿らしくなっちゃった…自分が美に固執してたこと…」
美に固執して、呪いを植えられた。そんな事せずに、ただ笑顔を人に向けられれば、それだけで自分は皆に美しいと言われていたであろう。
その証拠に、敵へ向けてきた目の前の少年の笑顔は自分を惹き付けた。
「ね、村人が私の事知らなかった理由教えてあげるわ」
イーディテルアは元気になり、駆け寄ってきたヴィクナを見ながら言った。
「私が村に居たのは…もう100年も前の話だもの」
イーディテルアが優しく笑いながら言うと、彼女は一気に老けだした。
「わぁっ!」
シルハは驚いてイーディテルアから離れる。魔力を失ったイーディテルアは老け込み、最後にはミイラの様になって死に絶えた。イーディテルアの着ていた白いワンピースと、彼女の長いブロンドヘアーだけが、妙に美しく輝いていた。

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あきゅろす。
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