イメージの成せる技
タピスが眠りについた頃、シルハはヴィクナを背に、イーディテルアと対峙していた。
「坊やに何が出来るっていうの?」
先程とは様子の違うシルハに戸惑いながら、それを隠してイーディテルアは高笑いをしながら尋ねた。
魔力を食べれば食べるほど、イーディテルアは美しく輝く呪いを持つ。今のイーディテルアはヴィクナの魔力を食らい、初めて出会った時よりも美しかった。
だが、その美しさがヴィクナを今のような状態にしたと思うとムシズが走る。
シルハは滅多に寄らせない眉間に皺を寄らせてイーディテルアを静かに睨んだ。
「…今まで男は全部私の虜になってきた…。だけど何で貴方は私を醜いと言うの…?」
そう、あの忌々しい女の様に、自分を醜いと言う馬鹿で節穴の様な眼をした男…。そう考えると、イーディテルアは沸々と怒りが込み上げて来た。この生意気な節穴男をグシャグシャにして、そして自分に服従させたい…。イーディテルアは怒りと共にそんな欲が顔を出した。
「潰してあげる…何もかも…ね」
イーディテルアは笑みを浮かべながらヴィクナから吸い取った魔力を溢れさせ、練り出し始める。シルハはそれと同時に半分しか扱うことの許されない魔力を練り込んだ。
「《天より貫くは罪人への戒め》」
イーディテルアは呪文を唱えると、辺りに真っ白な羽が散らばる。その羽に触れた樹の枝や葉は、鋭利な刃物で切られたかの様に音もなく樹から離れ、地面へと落ちていった。
シルハは呪文を念唱しない。ただただ、周りに自分の魔力を放つだけ。
未加工の魔力を放てることは知っている。さらに、魔力はイメージによりどんな形にでも変えられることも彼は教わっていた。
小さな球をイメージしたシルハは、自分とヴィクナに触れそうな羽を少量の魔力で吹き飛ばす。
いくら鋭利な物とは言え、羽は羽。小さな魔力で簡単に吹き飛ばすことが出来た。これなら、一回の"インター セプション"の使用より、消費魔力が少なくて済む。
「へぇ…」
ヴィクナはそんなシルハを見て、嬉しそうに口許を緩めた。
「《しなる鞭は痛みを産み出す》」
イーディテルアは面白く無さそうに舌打をしてから呪文を唱える。また木々へと命が吹き込まれ、木々の枝はそれぞれ異なる動きでシルハとヴィクナへ襲い掛った。それでもシルハは呪文を唱えない。
「隊長…失礼、します!!」
「おわっ!」
シルハは断りを入れるとヴィクナをお姫様だっこで軽々と抱え、枝の攻撃から起用に逃げる。
「シルハ!シルハ止めろ!は、恥ずかしいからホント!」
「ちょっ!今だけ!今だけだから我慢して下さいホント!」
ヴィクナは顔を真っ赤にしながらシルハの頭を押さえる。2人して『ホント』と言いながら逃げ惑う姿はかなり滑稽だ。だが、イーディテルアは全然面白く無かった。
「何、人を差し置いて…いちゃついてるのよ!早く仕留めろ!!」
イーディテルアは苛立った声で自身が命を吹き込んだ木々へと命令した。
「「いちゃついとらんわ!」」
そんなイーディテルアにシルハとヴィクナは同時に突っ込んだ。
「だとしても不快よ不快よ不快よぉ!!!!」
イーディテルアは拳を握り、顔を懸命に横に振って嫌と言う意思を表示する。自分を差し置いて…美しい自分を差し置いて男が他の女を見るのが許せなかった。
「殺せ!」
髪を振り乱しながら、イーディテルアは凄い形相で木々へ悲鳴にも近い声で命令する。木々の攻撃を避け、宙に浮いたときに別の木が2人の体を貫こうと、勢い良く枝を突き付けて来た。
シルハは片手だけでヴィクナの体を支えると、手を前へと突き出す。そして、特訓を思い出しながらイメージをした。
水が螺旋を描く。
静かに一呼吸すると、シルハは自分の魔力を木々の枝に送り込む。そのまま、修行の時の様に魔力に螺旋を描かせた。
すると木の枝は、ミシリと嫌な音を立てて軋む。そのままバキッと螺旋型に捻れ、枝は力なく地面に叩き付けられた。
「ツ…"ツイスター"!!?」
その様子を見て、振り落とされないようにシルハの首に抱きつくヴィクナは驚いた声を出す。
"ツイスター"。それは自分の魔力を対象に送り込み、螺旋を描かせる事によって何もかもを捻ってしまう魔法だった。
今のシルハのは、呪文を唱えていない未加工の魔力をただ対象に送り込んで捻っただけ。決してツイスターとは呼べないが、原理は一緒だ。
未加工の為、威力はかなり弱い。実際対象に魔力を送り込むのは意思のある人間などにはかなり高度で、呪文で加工しても成功率はかなり低い。たが、今回の対象が意思の無い木だったこと、そして折りやすい枝だった事からこの疑似魔法はなんとか成功してしまった。
そして、この魔法に不可欠な大事な要素。それは魔力のコントロールだ。
タピスに任せたのは間違いじゃ無かったみたいだね…
入隊当時とは比べもにならないコントロール力に、ヴィクナは小さく微笑んだ。

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