さっきとは違う
「魔力を頂くわ!!《しなる鞭は痛みを産み出す》!!」
「くっ…!」
イーディテルアの呪文で、周りの木々が命を持ったように唸り出し、枝を振るってヴィクナに襲い掛る。ヴィクナは魔力が無くなって重くなった体でなんとか側に居たシルハの襟首を掴んで後ろへ下がって躱した。
しかし、周りの木々は全てイーディテルアの魔法でヴィクナとシルハへ襲い掛る。ヴィクナはシルハを持ったまま、起用にそれを避け続けた。
「た、隊長…俺を放して下さい…。これじゃ隊長の邪魔です」
シルハは半分首が絞まりながらなんとかヴィクナに言葉を伝える。
「馬鹿!アタシの前では誰も傷付けさせないよ…!くそ…」
ヴィクナは悪態を吐くと、逃げるのを止めて、魔力を練り出した。
「《優しき光は柵(しがらみ)を解き放つ》」
ヴィクナの呪文でシルハの体は淡い光に包まれる。イーディテルアの魔法が解け、やっとシルハは自由になった。
ヒュン――
その時、耳に鞭がしなる様な風を切る音が耳に飛込む。
ガン――
「うぁっ!」
鞭の様にしなる木の枝は、逃げるのを止めたヴィクナの体に勢いよくめり込み、ヴィクナはそのまま後ろへ吹き飛ばされた。
「隊長!!」
シルハは自由の効くようになった体を起こして、ヴィクナへと駆け寄る。だが、シルハより先にイーディテルアがヴィクナの体を引きずり起こした。
「あぁ…」
もろに腹に重い攻撃を食らったヴィクナの細い体は悲鳴を上げ、自分で立てない状態なのを無理にイーディテルアに起こされ足がガクガクと震える。イーディテルアはそんなヴィクナを見て嘲笑した。
「いい様…」
黒い笑みを浮かべるイーディテルア。
「隊長を放せ…」
そんなイーディテルアをシルハは静かに睨みつけながら、冷たい口調で言い放つ。
「クス…放さなかったらどうするつもり…?坊や」
イーディテルアはヴィクナの顔に顔を近付けながら、シルハに向かって笑う。ヴィクナは口から血と唾を溢しながら、シルハを薄く開けた目で見つめた。
「シルハ…殺れ…!」
カスレた声でヴィクナはシルハに言う。
「煩いわよ…!」
イーディテルアはヴィクナの髪を思いきり引っ張った。
「くっ…」
ヴィクナは痛みに顔を歪める。シルハはただ、そんな様子を静かに見つめた。
「放せイーディテルア」
普段のシルハとは比べ物にならないほど、低く冷たい声…。イーディテルアは少し寒気がして身が震えたのが分かった。
「何も出来ないくせに良く言うわ…。私はこの子の魔力を食い尽す。そうすれば貴方に勝ち目はなくてよ?」
「食べさせない」
シルハはそう言うと、瞬時に魔力を練り出した。
この前タピスに教わった事を思い出す。魔力の形をイメージし、一気に円形にした魔力をイーディテルアだけに当たるように前に飛ばした。
「きゃぁっ!!」
念唱なしの攻撃に不意を付かれたイーディテルアは後ろに吹き飛び、ヴィクナはその場に倒れこんだ。
「隊長!!」
「えへへっ…カッコ悪くて…ごめんね…」
駆け寄ったシルハにヴィクナは口から血を溢しながらニカリと笑みを作った。
「俺の為に…すいません…」
シルハは目を伏せてヴィクナに謝った。自分を自由にするために、ヴィクナは攻撃を食らってしまったのだ。
「気に、しない気にしない!それより…ちょっとアタシ無理っぽい…かも」
ヴィクナはそう言うと、枝に打たれた部位を押さえながら地に丸くなる。
「任せて下さい…。俺がやります」
シルハは立ち上がり、イーディテルアを見つめた。
「ふふ…冗談が上手ね…あなたに何が出来るの?さっきだって簡単に捕まったくせに…」
イーディテルアは、汗をかきながら笑みをつくる。
シルハはゆっくりイーディテルアに歩み寄った。
「貴方を倒します。イーディテルア」
それはイーディテルアと始めてあった時とは全く違う落ち着いた声。鋭い瞳でシルハはイーディテルアを睨みつけた。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!