役立たず――!!
「あいつを頼んだよ」
〈…承知〉
シャルアは頷くと手を上に掲げる。すると、空から降り注ぐ太陽の光が少しずつ失われていき、3人が立っている場所は闇に支配された。
「暗っ!!」
シルハは思わず踊りながら叫ぶ。先ほどまで見えていた周りの世界が闇に呑まれてしまい、少し心細くなった。
「シルハ、安心しな〜!」
ヴィクナの声が闇から聞こえる。少し、シルハの心細さが無くなってきた。
暫しの闇、ヴィクナの声以来自分が踊っていて草を擦る音だけが響く。自分の位置だけモロバレな事に、シルハは少なからず嫌な感じに陥った。
こんな戦闘中の闇の中で自分の位置だけがバレているのは望ましい状態じゃない。
「坊やの位置だけバレバレよ…」
すると耳元で急に妖麗な囁き声が聞こえる。
マズイ―…!!
直ぐに逃げなければいけない。だがシルハの体は本人の意思に反して踊りを踊り続ける。イーディテルアはそんなシルハを嘲笑するようにクスリと笑うと、シルハの肩に手を掛けてきた。その途端に、シルハの体は踊るのをやめ、硬直をする。
「ねぇ坊や…なんで私の事を美しいと言ってくれないの…?」
抱き締めるようにシルハの体に手を這わせるイーディテルア。背中にピタリとくっついたイーディテルアの体温を感じながら、シルハは口を開いた。
「俺は…貴方を美しいとは思いません。貴方は…憎悪に満ちた……醜い存在です」
その言葉に、イーディテルアの動きがピタリと止まる。見えなどしないが、イーディテルアの顔が恐ばっているのが気配で感じられた。
「こ、この糞餓鬼!!」
イーディテルアはシルハから手を離すと、シルハの背中に魔力の波動の球をぶつけ、体を吹き飛ばした。
「うっ…!」
「はっ…!」
シルハは背中に受けた衝撃で倒れ込むが、硬直した体で受け身が取れず、鈍い痛みが体に走る。
イーディテルアは、その途端に体が急に動かなくなってしまった。
「な、なんなの…!?」
〈《影縛(かげしばり)》〉
イーディテルアの叫びと共にシャルアの落ち着いた声が聞こえてくる。シルハは硬直した体でなんとかイーディテルアの方を見つめる。すると、少し森に光が差し込み、暗かった闇のみの世界は少しだけ色を取り戻した。
そしてシルハが見たのは、固まり、焦り顔のイーディテルアと、後ろに立ったモノクロの女性、シャルアだった。
イーディテルアの周りには、薄黒い雲の糸の様な物に体を縛られていた。
〈呑み込め《影界》…〉
シャルアの呪文と共に、イーディテルアの体が地に…影に沈む。
「や…何…!!?」
体がどんどん沈み始めたイーディテルアは焦りを隠せず、狼狽した声を上げた。
「影の世界に沈みな、イーディテルア」
そんなイーディテルアを見ながら、シルハの元へと歩いてきたヴィクナはイーディテルアに言葉を投げた。
「ふ、ふざけないで…!!」
イーディテルアはそんなヴィクナに悲鳴にも近い声を上げる。
こんな物…!
「貴方の魔力を食べて弾き飛ばしてやるわ…!」
叫ぶと同時に、腰まで埋まったイーディテルアの体が光出す。途端にヴィクナの胸元の紋章も光だし、ヴィクナの体に激痛が走る。
「あぁぁあぁぁぁあ…!!」
「隊長…!」
目の前で、痛みにヴィクナが膝をつく。体が固まって動かない自分に、シルハは嫌気を感じて仕方がなかった。
「あ痛っ〜…」
「隊長…大丈夫ですか…?」
「う、ん。君よりは大丈夫だと思う…」
顔だけなんとか動かして見つめるシルハに、痛みに耐えながら笑みを作るヴィクナ。悔しくて、シルハは下唇を噛んだ。
「気にするなシルハ。アタシはウィクレッタだ。安心して。それより今は…」
笑みを浮かべながらシルハを見てからイーディテルアへと視線を移す。
イーディテルアの体は白く発光していた。
〈主(マスター)…〉
「な、何?シャルア」
〈私を留めるだけの魔力が主には残ってません。失礼します〉
「はぁ!!?ちょ、ちょと待て!コラー!!」
ヴィクナの制止も虚しく、シャルアは影の世界に沈んでいく。完璧に姿を消すと、闇に染まっていた世界は太陽の光を取り戻した。
「あんの役立たず――!!何もしないで帰りやがってぇ!!寧ろアタシが役立たず――!!」
頭を抱えながらヴィクナは叫ぶ。イーディテルアは自由になった体を地から抜き出すと、ヴィクナに向かって攻め込んできた。

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!