食べ放題
それから彼女は村を追放され、世界中を彷徨った。
行く先々で出会った人間の魔力を吸い取っては去り、吸い取っては去りを繰り返す毎日。
だが彼女は苦痛ではなかった。
行く先々で出会う人間全てが彼女を美しいと褒め称えたからだ。
イーディテルアはそれが嬉しくて仕方がなかった。自分の美しさを世界中の人間が認めてくれる。それだけで彼女の心は歓喜に震えた。
「そうやって私は生きてきた。そして最近ひっさびさにこの森に来たのよ」
イーディテルアは髪をいじりながら昔話を終える。ヴィクナは疑問に思い、首を傾げた。
「ルケーナ村の住人だったって事だよね?おかしいよ」
ヴィクナの言葉に今度はまだ踊りながらシルハが首を傾げる。
「どうしてですか?」
「村人は"イーディテルア"の名を聞いても"悪魔"と思うだけでなんの反応も無かった。追放されたなら、その名に覚えくらいあるはずでしょ?」
シルハの質問に答えながらヴィクナはイーディテルアに語りかける。イーディテルアはにっこりと微笑むと口を開いた。
「そうね。今の村人が知らなかったのも無理無いと思うわ」
イーディテルアは意味深な笑みを浮かべる。ヴィクナもシルハも訳がわからずに眉を潜めた。
「どういう意味…?」
ヴィクナの問いかけにイーディテルアは無言で微笑む。
「答えてあげても良いけど…その前に…」
イーディテルアはヴィクナに向けて手を掲げる。その瞬間、ヴィクナの身体は胸元に刻まれた刻印を中心に電撃が走ったような痛みに襲われた。
「あぁぁぁ!!」
「た、隊長…!!?」
ヴィクナの突然の異変にシルハは驚き、叫び声を上げる。なおも勝手に踊り続ける身体が今になってむかつきだした。
「痛った〜…な、何これ…?」
身体中に走った痛みに思わず膝をつき、ヴィクナは胸の刻印に触れた。
「あぁぁ…なんて美味しいの…こんな絶品な魔力食べたこと無い…」
イーディテルアは手で頬を撫でながら空を見る。頬は紅潮し、満足気に目を輝かせる。
そして、少し老けて見えたイーディテルアはシルハが初めて見たときよりさらに美しく輝いた。
「あへ…?」
ヴィクナはその様子と自分の身体の異変に気づき、妙な声を出す。
イーディテルアが美しく輝くのは人の魔力を食べた証拠。そして、自分の魔力が明らかに減っているのが分かった。
「魔力が…喰われた…?」
ヴィクナは胸に刻まれた紋章を見つめる。イーディテルアはゆっくり顔を下ろすと、さらにまったりした口調で話し出した。
「その刻印は私とあなたを繋ぐ絆…。対象に触れて私の魔力を身体に送り込むことで打ち込めるの。そしてそれを打ち込んだ人間からは離れた場所からでも魔力を吸収できるのよ」
イーディテルアの言葉にシルハは焦りを感じる。だが、当の本人は笑みを浮かべていた。
「へぇ…じゃ、あんたはアタシの魔力が食べ放題ってわけね」
「そう…。絶品よあなた。食べ尽くしてあげるわ」
イーディテルアは美しく輝く顔に邪悪な笑みを浮かべる。
ヴィクナはヨロリと立ち上がると、残った魔力を練り始めた。

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