助けと白い目
ブロンドのウェーブした髪をくりくりと指に巻き付けていじりながらイーディテルアは微笑む。だが美しさが少し半減した様に見えるせいか、先程より恐怖を感じなかった。
「お腹が減ったわ…」
イーディテルアは眉を下げて口元に笑みを浮かべたまま困ったような顔をする。
「私は魔力を食べないと生きていけないの」
イーディテルアは髪をいじるのを止めると、シルハに向かって距離を縮めるために歩き出した。
「え…?」
シルハはその言葉に疑問を抱く。
魔力と言うのは時間が立てば自然と回復する。それは体力を消耗した時に似ているもので、休みさえすれば元に戻るのだ。
だから魔力を食べると言うのは聞いたことがなかった。ましてや食べないと生きていけないなどとは…。
「貴方は…肉や野菜…水分を摂取しないと生きていけないでしょ…?それと同じ。私は魔力を食べないと生きていけない。この呪われた体はね」
イーディテルアはシルハにゆっくり近付きながら胸に手を当て、自分の体を指す。
「呪われた体…?」
シルハはジリジリと近付くイーディテルアに警戒しながら尋ねた。
「そう、昔の話よ。聞きたい…?」
イーディテルアは首を少し傾げながら足を止める。シルハはその話に興味を持ち、コクンと無言で頷いた。
「いいわ。教えてあげる。ただし…」
イーディテルアは軽く地を蹴ると高く舞い上がった。
「あっ…!」
急な行動にシルハはとっさに後ろに飛び、イーディテルアを迎え撃つべく体勢を整えようとする。
ズボッ――
「…あへ?」
シルハは間抜けな声を出した。
それは着地した時に妙な感覚と音がしたからだ。
抜かるんだ泥の中に足を入れた感覚。確に湿っていた土だったが、ここまで柔らかくはなかったはずだ。
何事かと確認する為に、シルハは足場を見つめる。
「げぇっ!」
気付いた時には遅かった。
そこは底無し沼の様。シルハの体を地底へと引き込むかの様に、どんどんシルハの足が沈んでいく。
抜け出そうと右足を上げようとすると、左足に重心がかかり、左側からスボリと地面に吸い込まれた。
「…貴方の魔力をもらってからね」
宙から舞い降りたイーディテルアはシルハの背中側に音もなく着地する。
いや、白いワンピースが風にはためく音はしたが、まるで自分の体重など無いかの様に着地したのだ。
イーディテルアは、すでに上半身しか地上に出ていないシルハの顔を上から除きこむ。シルハの顔を手で上に向けさせ、自分と目を合わさせた。
「そこは私の魔法をかけておいたの…。逃げられないでしょ…?」
なおも沈み続けるシルハを見て微笑む。シルハの視界は、イーディテルアの長いブロンド髪によって外の景色を遮られ、イーディテルアの顔のみを映していた。
「いただきます…♪」
シルハの顔を押さえる手に力が入る。シルハは抵抗しようと顔を動かすが、あまりの力に皮膚が悲鳴をあげ、ミシリと嫌な音を立てた。
イーディテルアの顔がシルハの真ん前まで迫る。そして互いの唇が重なる寸前まで来た。
「《押し寄せる圧力は他を潰し去る》」
その時、突如響く呪文念唱。真横から押し寄せた空気圧の球に、イーディテルアの体は吹っ飛んだ。
「う…うへ…?」
「シルハ!」
突然の事態の連続に硬直するシルハに、一人の少女が駆け寄った。
「大丈夫?今助ける」
「た、隊長…!」
それはヴィクナだった。沈みかけるシルハの体を引きずり出すと、ヴィクナはシルハを思いきり睨みつけた。
「…仲間は?」
「え、えっと…」
「単独行動はするなって言っただろ―が!!!」
「す、すいません!!!」
殴りかかってきそうなヴィクナの気迫に、シルハは小さくなりながら必死に謝る。その様子を見て、ヴィクナは気が萎えたのか、一回深呼吸をして自分を落ち着けた。
「とりあえず……何もされてない…?」
ヴィクナが少々うつ向きながら上目使いで尋ねてくる。
なぜか、その雰囲気に心配以外の別のものを感じとった。
「だ、大丈夫です。隊長にギリギリで助けて頂いたんで…」
「ホントに〜…?キスしてたように見えたけどぉ?」
疑る様に見るヴィクナの視線が痛い。シルハは両手を大きく振って否定した。
「ししし、してないですよ!!!」
「でもしたかったんじゃないのぉ…?あの状態でも魔法使って乗り切れたでしょ?」
「て、てんぱっちゃって忘れてただけです!ホントに!!!」
シルハの必死の言い分に、そ〜で〜すかぁ〜と言いながら顔を背け、横目でヴィクナはシルハを見る。その目は明らかに軽蔑が混じっていた。
「ちょっと…何盛り上がってるのよ…!」
その時そんな二人に向かって、吹き飛ばされ、乱れた髪を直しながらイーディテルアが声を掛けた。
「酷いじゃない!痛かったし…髪も服もグシャグシャ」
見なさい!と言うように手を広げて自分の有り様を2人に告げる。シルハとヴィクナはマジマジとイーディテルアを観察した。
「あんたが悪魔"イーディテルア"だね?」
「そうよ?貴方も美味しそうな魔力ね…」
イーディテルアはヴィクナの登場に少し喜びを感じ、にっこりと微笑んだ。
「シルハ、下がってな。アタシがやる」
ヴィクナはそう言うと、数歩イーディテルアに向かって前に出た。

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