心配
男を担ぎ、森の外に向かっていたルイは気配にいち早く気付き、身構えた。
「レイチェル!」
「ん?どうしたの?ルイ君」
レイチェルは空からルイの事をナビゲートしながら、ルイの呼び掛けに下を見た。
「敵襲だ…」
ルイの言葉と同時に、森の奥から狼の様な姿をした獣が3体、ルイとマーダに向かって飛込んでくる。
ルイは男を担ぎながら、マーダは身軽に横に飛ぶことによってその攻撃を軽々と避けた。
レイチェルは事態に気付き、地上に降り立ちながら、獣の姿を見つめた。
「何かな…この子達…」
「魔力がひしめいてるのを見ると誰かに造り出された魔獣だな」
ルイはレイチェルの問いに的確に答える。マーダはルイの服を引っ張って意見を述べた。
「さっき感じた嫌な魔力に似てるよ…」
マーダの手は少し震えている。確に、ルイもレイチェルも、この魔力には身の毛がよだった。
「悪魔さんの刺客かな?」
「…だろうな」
ルイは男を地面に寝そべらせるとチャクラムを構える。レイチェルも填めていた黒い手袋を更に引っ張ってきちんと填めなおし、身構え、マーダは魔力を辺りに集中させた。
しばらく両者の睨み合いが続く。
戦いの幕を開ける様に地を蹴ったのはほぼ同時。3人の人間と3体の魔獣の距離は一気に縮まる。
ルイはチャクラムに水を纏わせると、それを1体の魔獣に投げつける。魔獣は少し体を反らし、チャクラムの攻撃を躱すとルイに飛び掛ってきた。
「《流水は全てを洗い流す》」
ルイの呪文により、魔獣の体は何処からともなく出現した円状に放出された水に押し戻され、後ろに吹き飛ぶ。その時に、ルイの手に戻るべく一回転してきたチャクラムに見事に首をかききられ、魔獣は黒い煙となって姿を消した。
レイチェルは魔獣と激突するや否や手で魔獣の頭に手を押し当てる。そしてその手を基盤に一回転して魔獣の後ろに回りこんだ。魔獣は直ぐ様体をバネの様に跳ねさせ、レイチェルの方に向き直ると同時に飛び掛る。レイチェルはしゃがんでその攻撃を躱すと、魔獣に生えていた尻尾をひっ掴み、バランスを崩させた。
「《驚異は突然の様に》」
呪文と共に、旋風が魔獣の下から巻き起こり、魔獣の体は粉々に千切れ飛ぶ。
その肉塊はあっと言う間に黒き煙となり姿を消した。
マーダは自信の魔力を纏わせて、変身をすると、俊敏な動きで魔獣の後ろに回りこみ、その爪の伸びた赤黒い手で魔獣を切り裂く。
魔獣はなんとかマーダの攻撃を受けたが、致命傷を避けるように躱し、マーダにそのまま噛みつこうと牙を向く。
マーダはその牙に怯まずに魔獣の大きく開いた口に手を突き付けると、喉を切り裂き、魔獣は黒い煙となり姿を消した。
「ふぅ、終了だね」
1人1体の魔獣を倒し終えてから、レイチェルは額を拭って一息つく。
「面倒になったな。次のが来る前に早く行くぞ」
「そだね」
ルイの提案にレイチェルは頷くと、また空に舞い上がり、ルイは寝そべらせていた男を再度担ぐ。
魔獣が現れた方角を心配そうに見つめるマーダに気付き、ルイはマーダの側に寄った。
「どうした?」
「シル兄…」
マーダはおどおどしながらシルハが消えていった方角を見つめる。
この魔獣が悪魔の物であれば、シルハは確実にこの森の悪魔と接触した事になる。ルイは軽く舌打をした。
「レイチェル、あとどれくらいで外に出る?」
「もうちょっと歩く…かな?」
レイチェルもシルハを心配しているのだろうか、まだまだある距離に溜め息をついた。
「……急ごう」
ルイはマーダの肩をポンと叩くと、歩みを進める。
マーダはしばらくシルハが居るであろう方角を見つめていたが、後ろに向き直るとルイに追い付くために小走りで駆けていった。

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あきゅろす。
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